まじりけ

工藤行人

予示される主題?

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過酷さをのぞいたティベリウスの明晰、惰弱さなきクラウディウスの博識、すべての愚かしい虚栄心を剥ぎとったネロの芸術趣味、まぬけたところのないティトゥスの善良さ、滑稽な吝嗇さのないウェスパシアヌスの節倹、これらはわたしが見習うに足るだけの範例を形づくっていた。

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【マルグリット・ユルスナール〔Marguerite Yourcenar〕著/多田智満子訳『ハドリアヌス帝の回想〔Mémoires d'Hadrien〕』(新装版、白水社、2008、原著1951)】


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およそ二項対置というものは、まあ、二項の対立でも対比でも、名指しは何でも宜しいのですけれども、ああ、対立というと戦争になっちゃうか……まあ兎も角も、そういったバイナリスムによる両断法は世界を端的に認識するための要諦であります。あらゆるものは、切れば観念的にはまあまず二つに分かたれる。善と悪、陰と陽、敵と味方、大人と子ども、女と男……ところが、ここにいまひとつ加わって三項となりますと俄然、民主主義の原理が動き出すわけですね。この時に我々が立ち止まって思い巡らすべきは、ではさて、バイナリスムの相対化という大仕事をやってのけるその偉大な三項目、あるいは四項、五項と増えて行くのかも知れないそれらが一体全体どこからやって来るのか、どれだけ増えて行くのか、そして何より、いかなる資格や性質で以てその二項の相対化に加担する項たりうるのかでありまして、それだけは私にも未だ終ぞ解き明かせぬ謎のままであります。

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【浅井治久(教養学部教授)「〈ひとつ〉にして〈ふたつ〉、〈ふたつ〉にして〈いまひとつ〉――婚姻というシンクレティズムの現代的位相――」(寧和大学公式動画チャンネル「二〇二二年度 退職教授による最終講義録集」、2023/03/15)の音源より】

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