家なき子

 ぱたんっ……

 パパとママの手紙を読み終わった私は、倒れるようにして机に突っ伏した。 

「グレイス様! 大丈夫ですか!」

 エマさんは大慌てして、私の肩を揺さぶっている。

「え……エマさん、大丈夫だから落ち着いて……」

 私はゆっくりと頭を上げた。

「何か悪いことでも……?」

「うん、最悪なことが」

「……! グレイス様、私、何と言ったら良いか……」

 そう言ったきり、エマさんは次の言葉を繋げないでいる。

「その……パパとママが……パパとママが離婚しちゃったの!」


 手紙の内容をかいつまんで言うとこんな風になる。

 “愛するグレイス。

 パパとママは離婚することになった。本当はグレイスが成人して独り立ちをしてからと考えていたが、グレイスが聖女候補に選ばれたのを機に離婚することにした。

 家は売ることになった。おまえの部屋にあるものは、荷造りが終わり次第、そちらに送る。

 急な報告になってすまない。

 グレイスならばきっとみんなに愛される聖女になれる。

 パパとママの新しい連絡先は後程知らせる

 末永く元気で”


 手紙の内容からわかる通り、こっちの世界のパパとママの離婚により、私には帰れる実家がなくなってしまった。つまり、『実家に帰るエンド』がなくなってしまったのだ。

 『聖女エンド』・『恋愛エンド』・『実家に帰るエンド』のすべてがなくなってしまった私に、どんな結末が待っているのか全く見当がつかない。なぜなら、ゲーム版の『聖女伝説』にはこの三つの結末しか用意されていないからだ。

 そして、このリアル版『聖女伝説』は、攻略法が全然役に立たなかったり、パパとママが離婚したりと、ゲーム版にない想定外の事態が続けざまに起こっている。だから今後、私の身に何が起こっても不思議ではない。この世界からの追放か、もしくは、犯罪者として処刑……想像が、悪い方向へ悪い方向へと行ってしまう。

 それに、そのようなことにならなかったとしても、この右も左もわからない世界で、たった一人でどうやって生きていけばいい? 十六歳の女子高生が? いや、こんな状況、アラサーのOLでも生きていけない。


 かくして、私は再び引きこもり生活に入った、というか、それしかなかった。

 エマさんは、私がパパとママの離婚にショックを受けて、引きこもっていると思っているので、必要最小限のことしか話しかけてこない。まさに腫物として扱われている。


 訪問者がやってきたのは、引きこもり生活が一週間ほど経過した後だった。

 

 


 




 


 

 

 

 


 



 

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