これがカレーだ!
私は薬屋という名のスパイス屋で、ターメリック・クミン・コリアンダー・シナモン・チリ・カルダモンを購入した……のだが、お金が足りなくなったので、ギルバートに買ってもらった。こっちの世界でも、カレーに使うスパイスは一通りそろっているみたいだから安心した。
そんなわけで、久々にカレーが食べられることもあって、私は上機嫌で帰宅した。
買ってきたものをエマさんに見せると、
「グレイス様、どこかお悪いのですか……?」
とお決まりの反応が返ってきた。
いちいち説明するのも面倒なので、実際にカレーを食べてもらうことにした。
本当は今すぐにでも作りたかったが、今日はすでにエマさんが夕食を用意してくれていたので、カレーは日を改めて作ることにした。
スパイス以外のカレーに必要な材料は、エマさんに用意してもらった。
この世界は、ご飯はあるが、炊飯器はない。私は炊飯器以外でご飯を炊いたことがないので、ご飯はエマさんに炊いてもらった。
今日は定番のチキンカレーを作ることにした。エマさんとギルバートは初めて食べるカレーだから、辛さは中辛にしてみることにした。
エマさんは、未知の料理に興味津々の様子だったが、家事のプロフェッショナルのエマさんに作っているところを見られるのは、かなりのプレッシャーだ。
いつもと勝手が違う場所で作ったので、上手くできるかどうかちょっと心配だったが、何とかなったようだ。
「お、いい匂い」
「不思議な香り……食欲がそそられます」
カレーを持って部屋に入ると、さっそくエマさんとギルバートが、食いついてきた。どうやら出だしは上々のようだ。
「これが、カレーよ!」
エマさんとギルバートの反応に気をよくした私は、自信を持ってカレーを食卓に置いた。
「お前、これ……」
「グレイス様、一体、これは……」
私が作った渾身のカレーライスを見て、エマさんとギルバートは絶句していた。
「さ、冷めないうちに食べて!」
何だかエマさんとギルバートの様子がおかしい。カレーライスを食べることを躊躇しているように見える。
「もう! 毒なんて入っていないから大丈夫だったら! カレーライスってこういう食べ物なの!」
私に急かされ、エマさんとギルバートは戸惑いながらカレーライスを口に運ぶ。
「おいしい!」
「うまい!」
エマさんとギルバートは、あっという間にカレーライスを平らげた。
ちなみに後で知ったことだが、この世界において、ご飯とおかずを一つの皿に一緒に盛り付けることは、非常にお行儀の悪い行為だということだ。
さらに、ご飯に何かを載せて出すというのは、夫婦間において、「離婚して欲しい」という意味があるそうだ。
何と私は、一気に二つのタブーを犯していたということになる。
エマさんとギルバートがカレーライスを見て、戸惑っていた理由がようやくわかった。
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