『聖女伝説』において、お目当てのキャラとラブラブになれるかどうかは、親密度が大いに関わってくる。

　親密度が低ければ、そもそも恋愛イベント自体が発生しないからだ。

　ゲーム序盤は、どのキャラとも親密度が低いため、お目当てのキャラの元に頻繁に通い、地道に少しずつ親密度を上げていくしかない。

　しかし、その親密度を爆上げしてくれるドーピング的なアイテムがある。

　それぞれの支援者には、お気に入りのアイテムがあり、そのアイテムを身に着けて会いに行くと、親密度がものすごく上がるのだ。

　で、そのアイテムというのにも、ランクがある。ランクが高ければ高いほど、親密度の上げ幅が大きい。そして、まあ、この世界も私が前にいた世界も同じなんだけど、ランクが高いアイテム（高級品）ほど値段が高い。

　ちなみに、アーサー様のお気に入りアイテムは、薔薇の香水。

　公式設定によると、アーサー様は、自分専用の薔薇農園を所有しているほどの大の薔薇好き。自分専用の薔薇農園とか……大貴族様はやることのスケールが違いすぎる。

　そんなわけで、私は、アーサー様攻略法に基づき、薔薇の香水を買うべく街にやってきたのだった。

　実のところ、私はそんなに香水が好きではない。

　シトラス系の軽い香りならまだいいのだが、フローラル系の香りが苦手。もちろん、薔薇の香りも例外ではない。

　ただし、これは以前の私の嗜好であって、今の、『聖女伝説』の主人公となった私は薔薇の香りの香水が大好きかも知れない！

　と、意気込んでお店に入ったものの……やっぱりだめだった！　残念ながら香りの嗜好は全く変わっていなかったのだ。

　でも、アーサー様に気に入られるためには、苦手な香りも我慢しよう……、はぁ……。

　単なるゲームのプレイヤーだったときには何とも思わなかったけど、相手の好みに合わせるために、苦手なことや嫌いなことを我慢してまでやるのって、一体、何の苦行？

「薔薇の香水を下さい」

　と言って、私はお店の人に商品を出してもらった。

　ここはゲームと一緒だったのだが、薔薇の香水は何種類かあり、ランクによって値段が異なっていた。

　念のため、全部の香水の香りを試させてもらったが、最高ランクの値段が一番高い香水の香りが一番苦手だった……。

　しかし、親密度が一番上がるのも最高ランクのもの。

「一番高いのをお願いします……」

　私は腹をくくった。

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