楽勝なはずの乙女ゲームの世界に聖女候補として転生しましたが、攻略に失敗してみんなに嫌われたので、生きていくためにカレー屋で頂点目指します!
林 真帆
プロローグ
(やっぱりいい! 今度の新キャラ!)
通勤電車の中で、私はうっとりとスマホに保存した画像を眺めた。
昨晩遅くに、人気乙女ゲーム『聖女伝説』の次回作に登場する新キャラの画像が公開され、私はすっかり彼に心を奪われてしまったのだ。
明日は会社だと言うのに、もう寝なけれなならない時間なのに、私は興奮が抑えきれず、テンションが高いまま、乙女ゲーム攻略ブログに自らの熱い思いをぶつけていた。
さらに、ブログなんかを書いてしまったおかげで、余計にテンションが上がってしまい、一睡もすることができず朝を迎えた。
しかし、いまだに興奮は醒めないようで、一向に眠気がやってくる気配がない。
(発売日までに旧作の復習をちゃんとしておかないと!)
私はスマホをバッグにしまい、代わりに携帯ゲーム機を取り出した。
(今日の電車は妙に揺れているような……)
私は今乗っている電車の異変に気づいた。ずっと下を向いて端末を操作していると、余計に電車の揺れが気になるのだ。
(ちょっと酔ったかも……)
こんなにガタゴト激しく揺れている車内で、ゲーム画面の小さな字を目で追っていたら気持ち悪くなって当然だ。
私はゲームの画面から目を離した顔を上げた――その瞬間、電車の車両全体が大きな衝撃に包まれた。
(うう……苦しい……)
私は電車の座席に座っていたはずなのだが、突然の衝撃とともに空中に放り出され、気を失ってしまったらしい。
今の私は、うつぶせの状態で、背中の上には何か大きくて重いものが乗っかっているようだった。意識はなんとなくあるようだが、とにかく身体の感覚がない。辛うじて言えば、指先だけは何とか動かせた。
私の乗っていた電車は事故ったのだ。そして今、私は死にかけている――。
私はようやく自分の置かれている状況を理解した。
普通に学校を卒業して、普通に会社に勤めて、普通に約三十年生きてきただけなのに。
人生の幕切れは、唐突に、こんなにも早くやってきた。
(次に生まれ変わるときは、この世界の住人になりたい……。ああ、でも、新作をプレイしてから死にたかった……)
消えゆく意識の中で、最後の力をふり絞って私はさっきまでプレイしていた携帯ゲーム機を握りしめた。
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