そして、嫌われ者になった。

 アーサー様との一件があってから、自室に帰って来るまでの記憶があやふやだ。

 私の様子がおかしいことに気がついたエマさんが、ドア越しに声をかけてきた。

「グレイス様、大丈夫ですか……?」

「今日はちょっと疲れたから、このまま休みます」

 簡単に伝えると、「わかりました。何かあったら、遠慮なくおっしゃってください」と言ってエマさんは引き下がっていった。

 私はベッドに横になると、何がアーサー様を怒らせてしまったのか、一体、何が悪かったのかを考え始めた。

(全っ然、わからない)

 私は頭を抱えた。私は、数えきれないくらいアーサー様ルートを攻略している。その私がしくじるなんてありえない!

(もしかして、アイテムを間違った?)

 私は実際にお店に行って、自分でアイテムを選んだ。私が選んだ薔薇の香水は、もしかすると選んではいけないアイテムだったのかも……そんな考えが私の頭をよぎった。

(うん、そうだ。そうに違いない。そうじゃなかったら、アーサー様にあんなに怒られるわけがない!)

 私は自分にそう言い聞かせた。そして――

(そうだ! 明日は他の支援者様のところ行ってみよう! そうと決まれば明日の準備しなきゃ!)


 その後、私はゲームの攻略方法と同じことをそのまま、他の支援者様に対しても行った。

 ――結果、私は大爆死した。私が培ってきた攻略法は全く通じなかったのだ。

 私の自信は脆くも崩れ去った。さらに、この世界で私が思い描いていた逆ハーレムも夢のまた夢となった。

(こんなの絶対におかしい! 攻略法が全く役に立たない! この世界は、私が知っている『聖女伝説』の世界じゃないの?)

 私はナイトテーブルの引き出しを開けた。

 実はここには、私が前の世界で死ぬ直前に握りしめていた携帯ゲーム機が入っている。

 画面にはヒビが入っているし、長いこと放置していたから、ちゃんと動くかどうか心配だが……思い切って電源を入れてみることにした。

 すると、電源が入り、ときどきノイズが入るが、何とかゲームのスタート画面が表示されるところまで行きついた。

 恐る恐る保存していたゲームデータを使用し、ゲームを再開してみる。

 私がチェックしたいのは、親密度だ。

「何、これ! こんなの見たことない!」

 私は思わず叫んでしまった。

 画面に表示されていたのは――

『親密度0』

 これは、アーサー様だけではなく、私が会いに行った支援者様全員の親密度が『0』ということだ。

 実際にゲームをプレイしてみようとした途端、電源が切れてしまい、もう二度と電源が入ることはなかった。


 

 

 





 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る