常連客

小丘真知

常連客

2年くらい前でしょうかね。

そのくらいからウチの店に来るお客さんの話です。



ウチは女房と二人で切り盛りしてる小さな定食屋ですけどね。

おかげさまで繁盛させてもらってるんですよ。

値段も手頃だし、盛りも良い方だと思いますよ。

近所の学生諸君が腹一杯になるようにやりくりしてますから。

稼ぎにはなりませんが、嬉しそうに頬張るお客さん見てる方が楽しんでね。

そうやって30年連れ添ってやってきたんですけども、あんなお客さん初めてですね。


不思議なんですよ。

まあ細身のスラッとした、いわゆる清楚といった感じの女性ですよ。

服装は淡い色のスーツが多いかなぁ。

あと、だいたいいつも髪を結んでますな。

ポニーテール?だったりお団子だったりね。

そのお客さん来るたんびに女房が、親戚に紹介したいわぁなんて言ってるもんですから、べっぴんさんですよ。

いつも入り口近くの角ですね、座るのは。

ちょうど、アタシらがいる厨房に正面向くように座って、少しすると手をあげて女房を呼んでいろいろ頼むんですが、その頼む量ってのがね、いっちゃあなんだけど男顔負けなんですよ。

こないだなんかは、生姜焼き定食の大盛りに天丼つけてましたから。

それをぺろりですよ。

いやぁ、痩せの大食いだなぁなんて、女房と二人で関心してるんですよ。

しかも、それだけじゃないんですよ。

どうもウチの店行った後に他にも行ってるらしいんですよ。

ウチの前の通りをもうちょっと行ったところにラーメン屋があるんですがね。

そこの大将と話が合っちゃたんですよこれが。

その大食いのお客さんの話で。

で、聞いてると、ウチの店行った後に大将の所にも入ってるらしいんですよ。

いやぁたまげたねぇなんてね、大将と二人で笑ってたんですけどね。

で、何が不思議って、その食べる量ではなくて。



アタシも女房も、食べてるところを見たことがないんですよ。



そのお客さんが飯なりおかずなりを口に運ぶところを、見てないんです。



聞いたら大将もそうだって、見たことないって。



もう気がついたら終わってるんです。



一度、じーっと見てやろうかって女房と二人でやってみたんですけど、書き入れ時にできるこっちゃないんですよ。

んでそうこうしてるうちに、やっぱり終わってるんですよ。

長い髪を結いながらサーッと来て、にこっとしてね。

パパッとお会計済ませると、ごちそうさまでした、って颯爽と帰るんですよ。




どうやって腹に入れてんのかねぇ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

常連客 小丘真知 @co_oka_machi_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ