古いピアノが繋いだ、少し変わった、けれど一途な大人の恋の物語。

 今ではシリコンバレーなどと並ぶ大企業の本拠地でもあるシアトルで、何となく居心地の悪さを感じているピアノ講師のサラ。
 いつも通りのレッスンを終えたところで、たまたま有名な登山家のグリーゼと出会った彼女は、さらにひょんなことから古いグランドピアノを手に入れ、それをいつも弾かせてもらっているバーに持ち込んだことから、大きな転機が——。

 癖のあるピアノが彼女そっくり、と評されるその凛とした姿や気風の良さが目に浮かぶようで、全体的にどことなく懐かしい雰囲気がありながらも、やがて彼女のピアノがバーの客を巻き込んでいく様子は、本当にその音色まで聞こえてきそうな臨場感でした。

 シンプルな成功譚として終わるのかなと思いきや、そこは舞台のシアトルを活かした現代らしい仕掛けで意表を突かれ、さらには、最後はもうオーソドックスと言っていいほどの直球の大人の恋の結末に頬がゆるゆるになってしまいました。

 テンポの良い会話とちょっと癖のある脇役たち、そして鮮やかな演奏と、最後のシーンがはっきりと目に浮かんでくる映画のような一作でした。

 おすすめです!

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