理解、理由、理不尽
私は大変なことをしでかしてしまったようです。
理由があったとはいえ、人を殺すのは許されない行為でした。しかも、殺した人間を喜々として見せつけるのが一番よくなかったようです。
理解はしましたが、納得できませんでした。
感情のままに行動した部分もありますが、それ以上に薫を守るためにやったことでした。防衛手段のひとつです。
そんな私に所長はこんなことを言いました。
「ブランが薫を大切に思っているように、君が殺した子たちのことを大切に思っている人がいたんだ。それを奪う権利はないだろう?」
確かにそんな権利は、私も人間たちも持っていません。
だから、私は納得はできなくても、“そういうこと”とすることにしました。
●
こんなことをしでかした私ですが、処分されることも初期化されることもありませんでした。
理由としては、主にふたつです。
ひとつは、私に感情が芽生えたからです。未来があると判断されました。
幼いこともが感情をコントロールできないのだから、私が感情を理解できなくても当然だという結論に至ったらしいです。
ふたつめは、薫の記憶を消す必要があったからです。
知人の生首を見たこと、殺したのは共に暮らしていたアンドロイドだったこと、自分を守るために殺したことなど、精神面に負荷がかかり、寝たきりになってしまいました。
それを改善するためには、いじめの記憶と私の記憶を消すしかなかったのです。
所長が私の殺人は有耶無耶にし、この事件はひっそりと終わっていきました。
私は、こういった過ちを繰り返さないことを誓いました。
●
記憶の消去が上手くいき、薫の容態も安定したので、私は薫に会えることになりました。
ただ、それは一時的なもので、今後、共に暮らせるかどうかはわからないし、会うこともできるかどうかわかりません。
私は薫とやり直したいですし、これからも一緒にいたいですが、難しいこともわかっています。
薫をこんな状況に追いやったのは、他でもない私ですから。
薫は病室で、本を読んでいました。
腕には点滴の針が刺さっており、まだ回復には時間がかかることがわかりました。
「こんにちは、薫」
「えーと、こんにちは。初めまして」
薫の姿と声を持つ彼女から、「初めまして」と言われるのは、想像以上に辛いものでした。
「記憶がはっきりしなくて、誰だかわからないんだよね。名前を教えてもらってもいいかな?」
記憶はないものの、性格は変わらないようでした。
変わっていない部分もあり、私の知っている薫がすべて消えていないようで、安心しました。
「私はブランと言います」
あなたがつけてくれたんですよ、とは、言いたかったけれど、言いませんでした。
「ブラン。そう、ブランって言うんだ」
「どうかしましたか?」
このとき、少しだけ期待してしまったのは、間違いでした。
「印象と違うなって」
「え?」
彼女がどのような意図で言ったのかはわかりません。
たいした意味なんてないのかもしれません。いえ、ないでしょう。彼女は何も覚えていないのですから。
ですが、私にとっては十分でした。
目の前にいる薫が、私の知っている薫でないことを知るには。
私も変わってしまったと、“真っ白”ではなくなってしまったと、突きつけられるには。
その言葉だけで、十分でした。
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この日、私は絶望というものを知りました。
ブランの記録――she was pure, and she became pure. 聖願心理 @sinri4949
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