舞2
「上がっていいよ。ジャカランダ、スカビオサ。音楽を司るミセバヤが許可する」
「ありがとう」
壁代わりの衝立を、ミセバヤが動かす。可動式で、部屋の模様替えに便利な。ジャカランダは感謝して、階段を登る。木の床の上を、奥へと進む。
「ありがとうございます」
遅れて、スカビオサが室内に入る。目を見開く。ミセバヤが着ている服。形は、簡易的。色が華やか。濁りのない明るい赤。やや、桃色寄りの。色は、上が個々に割り振る。拒否することも、可能と聞いていた。よく、受け入れたと、感心した。
衝立を元の位置に戻した。ミセバヤは背にして、あぐらをかく。雫形の弦楽器を抱えた。鳴らして、調整する。
「勝手気ままに、舞うぞ」
「どうぞ。曲は……で、良いか?」
「ああ」
心のままに舞う。ジャカランダは宣言する。ミセバヤは受け入れたが。スカビオサは気色ばむ。学べないではないか。ちょっと、ジャカランダは笑った。受け取る側次第だ。
部屋の真ん中に立った。ジャカランダは、久しぶりと気づく。ミセバヤがささやいた、禁じられた曲で舞を舞うのが。
合図が出るのを待つ。無音。ジャカランダは心地よさを感じた。ああ、病んでいる。ミセバヤが言う。仲間とやらに会えば、治ることを期待した。
右手を上げる。ジャカランダの手の中に、一輪。舟の形をした花びらの花。淡紅色の。さっと、結った黒髪に飾った。
ミセバヤによって、鳴らされる弦楽器がリズムを作る。ゆったりとした、優美な舞を、ジャカランダは舞う。
走り、跳ねる。勇壮な舞に移る。盾と鉾を持っているような。室内の隅々まで使った。ジャカランダは優美な舞に戻る。先の舞とは、異なる。締めくくった。
「贈り物は、こんな物で良いか?」
「ああ、充分だ。ありがとうございます」
髪から花を外す。手首を回す。元の場所に、花を返した。ジャカランダは尋ねる。ミセバヤは満足そうに笑った。我に返ったスカビオサが拍手する。
「呼び出しだ。議論の結果が出たみたいだ」
吹き込む風が知らせる。上の方々が求めていた。指定の場所に来る。当のジャカランダだけでなく、ミセバヤとスカビオサも感知した。
人智を超える力での移動。考えたジャカランダの視界に入る。訴えるスカビオサの姿。後継の存在が、何よりも欲しがっている物。帰って来られる確率が低い、自分がやるべき事。
「忘れていた」
ボソッ、と、ジャカランダがつぶやく。白紙を一枚、手の中に呼ぶ。続いて、筆。黒々とした墨で記す。次の音楽を司るのは、スカビオサ、と、認める。署名した。
「どこまで通用するか、判らないけど」
歩み寄って、ジャカランダは差し出す。正直なことを伝えた。スカビオサは満面の笑みで受け取る。聞いていたのか、若干の不安があった。直面した方が、学べると思い直す。
「では、行って来る」
「行ってらっしゃい」
ジャカランダの一言。ミセバヤとスカビオサは返した。
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