歌4

「ところで、どんな種類の種なんだ? 木を隠すなら、森?」


「いえね。下界の書物に触発されてね。人間の肉体に、種を植えてやろうと思いまして」


 探す先を絞りこもうと、ジャカランダは問い掛ける。シキミの答えに絶句。どんな言葉を掛けたら良いか、キャラは悩んだ。


「もちろん、人体実験に参加してくれる人には、謝礼を出しますよ。参加者の願いを叶える。どんな願いでもね」


「……」


 説明を聞いて、ジャカランダもキャラも黙り込む。シキミが抱える闇は、根深い。天界に入る前は、人体実験に参加することで生き伸びてきたと聞いたが。対象者に求めているところを見ると、未だに、晴れていないと判る。よく、選ばれたものだ。


「お前は、人体実験が好きだな」


「すべての実験が好きですよ。内容、経過と結果は、上に伝えていますし」


 心外そうに、シキミは訂正する。上は、シキミの実験を有用と見ていると判る。キャラは監視役と思われるが。果たしているとは、言いがたい。


「シキミが実験結果を独り占めしていないことを評価する。参加してくれた人に、あたくしから、音楽の祝福を与えよう」


「……限定、一名ですか?」


「人体実験だぞ。参加してくれる人が少ないに決まっているじゃないか」


 天界の発展に貢献するなら。気分良く、ジャカランダは褒美を出すと宣言する。気になったシキミは、確認した。たった一人しか、参加しないと思われている。不思議そうに、ジャカランダが返す。少ないなら、全員に。頼みたかったが。自ら認めるようで、言い出せなかった。


「僕の片割れは、いずこにいるのでしょうねえ。今のままでは、犠牲の数が増えてしまいますよ」


 代わりに、シキミは本音を漏らす。どす黒い思いに触れて、揃って震える。居場所を把握していて、止めに来られないと判っていて言っているとジャカランダは読む。キャラは目を輝かせて、カッコイイと言いたげだった。


「ああ。お呼び出しだ。では、キャラと共に、報告してきます」


 上から報告を求める声が届く。焦りを含んだ。チラッとシキミは見上げた。急かしていると解釈して、向き直って伝える。意味することに触れるのが怖い。ジャカランダは訊くのをやめた。


「ミセバヤの邸宅で、落ち合おう」


「はい」


 集まる場所を、ジャカランダは指定する。ミセバヤの誕生日が近い。祝いの言葉を忘れれば、回収に支障をきたす。結果を台無しにする。判っているからこそ、素直にシキミは同意した。キャラと共に、彼が立ち去るのを見送って離れた。

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