第3話 舞

 東屋風の建物が、雑多に集まる。屋根の下に誰がいるかで、持ち家が判る。主の制御下にある、温暖な気候。住まずに貸し出して、放浪している神も多い。ジャカランダは探す。ミセバヤは誕生日を、皆に祝ってもらいたいと望む。いるはずだ。


「ミセバヤ!」


「おう! あっ! ジャカランダ!? さま」


「敬称はいらないと言ったろう」


 確か、この辺り。見当をつけたジャカランダは呼ばわる。間近で、返事が聞こえた。衝立から、顔を覗かせる。白い肌に掛かる、ごく薄い黄褐色の短い髪。人懐こい顔立ちをした、ミセバヤだ。しまった、という顔をしたが。ジャカランダの返事に、笑みを浮かべた。


「やっと、行方不明の仲間を探しに行く気になったか? ジャカランダ」


「回収のついでに、ね」


 黒い目と合うなり、ミセバヤが話し出す。ちゃめっけたっぷりに。ジャカランダは生真面目に答えた。


 仲間と言われても、ピン、とこない。ジャカランダにとって、同じ音楽を司る神々は、弟妹みたいなものだからだ。共に、天界に住まう神々を仲間と呼ぶのは、難しかった。根本的な考え方が異なる。下界に行けば判るだろうと、思い直した。


「今、下界に行くのは、良い選択だと思う」


「そうなのか?」


「シキミが落とした種について、上は大騒ぎだ。オレの誕生日会を開くのが危うくなるくらい」


「そんなに!?」


「下界の大地に植えるのも渋る案件なのに。人間の肉体に植えるというから」


 声を落として、ミセバヤが言う。驚いて、ジャカランダは訊き返す。大げさではないか。道々を、思い返す。家が建ち並ぶ所まで来るまで、後継の存在しか見かけなかっ たのを。見落としに気づく。神々に守るように、定められた法がある。『人智を超える力で、人間を傷つけてはならない』上の方々は、種が当てはまるか。議論の真っ最中と考えられた。


 ミセバヤが何か言いたそうにする。不思議そうに、ジャカランダは見返す。祝福を与えると言ったことが、議論に影響を及ぼしていると気づいた。


「どちらにせよ。回収の命令が下る。ミセバヤの誕生日前にな」


「じゃあ、今、誕生日の贈り物をくれよ」


 自分の読みを、ジャカランダは話す。当たり前のように、ミセバヤが要求する。


「は!?」


「オレが弦楽器を弾くから、舞ってくれ」


 さすがに、驚く。ジャカランダは物を用意して、後継のスカビオサに託すつもりでいたからだ。ミセバヤは雫形の胴に棹がついて、弦が張られた弦楽器を持ち上げた。


「ジャカランダより、下手だけど」


「気にするな。あたくしも、しばらく、演奏しておらぬ」


 恥ずかしそうに、ミセバヤは言う。ジャカランダは舞を披露すると決めた。今の心理状態では、物を選ぶのが適当になる。


「ジャカランダさま」


「スカビオサ、か」


「中々、お戻りにならないので、心配しました」


 後ろから、呼びかけられる。ジャカランダは、良いタイミングと思った。迎えにきたスカビオサに、舞を教えられる。


「一度だけ、舞う。意味、判るな」


 振り返ったジャカランダは伝える。緊張した面持ちで、スカビオサは頷いた。

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