舞3

「追放」


 上の方々との連絡役が、一名。透明な壁の前に立つ。向こう側には、下界に降りる池がある。無言のままで、筒状に丸めていた紙を伸ばす。読み上げたジャカランダの頭は、真っ白。何も考えられなくなった。


 追放とは、重い罪に問われる事をした存在に下される、罰だ。


「うるさい方々を黙らせる、一手ですね。事件が起きたと聞いて、集まってきたとしても。追放と聞けば、『ああ、またか』と、帰っていく。興味を失っている間に、回収する策ですね」


 ズドーン、と、ジャカランダは落ち込んでいた。冷静な声が、耳に届く。手をついている青草が生えた地面から、仰ぎ見た先。シキミが自らの考えを述べていた。連絡役から情報を引き出す意図が感じられた。


「人体実験は、主のひと声で決まりました」


 許可が出た、と、連絡役が伝えた。今の主らしい、と、ジャカランダは思う。落ち着いてきて、立ち上がった。


「時間を稼ぐ方法がある、と?」


「世界の再編を行います」


 シキミは不審そうに問う。うるさい方々の気を反らせることができるのか。策があるからこそ、と、連絡役が答えた。追放される存在の数が多いことを、皮肉られると見越して、事を起こす。


 世界再編とは、思い切った手を打つ。ジャカランダは思ったものの、今の天界に必要と納得した。利用されたか、と、シキミは苦笑いする。確かに、再編が行われれば、自分たちに危険が及ぶため。手出しも口出しもしてこない。


 ジャカランダから見て、シキミを挟んだ向こう側。立っているキャラはひたすら、回収に行くことが安全と祈った。


「あっ! そうだ。変装もして、時間を稼ぎましょうか?」


「かえって、興味を引きそうだな」


「再編を隠したいのなら」


「気を引いていただけると、ありがたいです」


 思いつきを、キャラは声に出す。シキミは渋い顔。ジャカランダは尋ねる。連絡役の答えは、うるさい方々に止められることを示唆していた。


 綿密な打ち合わせをして、一旦、解散する。


 戻ってきたジャカランダを見た。スカビオサが不思議そうな顔をする。


「変装することになった」


「協力させてください」


 事情をジャカランダが話す。スカビオサは面白がった。場所はミセバヤが貸してくれた。


 顔から鎖骨の辺りまで、白粉を分厚く塗られる。これでもか、というくらいの重ね着。十二単と呼ぶらしい。今回、人智を超える力で形作ったが。人間が本物を着た時、背が伸びなくなるんじゃないかと心配した。黒の長い髪を結ったかつらをかぶる。冠が載った。


「何だ? それは?」


「判りやすくするものです」


 押し問答したものの、ジャカランダは承諾する。スカビオサが白鳥の翼を模した物を背中に付けた。改めて、向かった。


 吹き出す、シキミとキャラ。スカビオサに騙された、と、ジャカランダは思った。先に着いていた、二名は下界の日常着に、帽子にマスク。自分だけが悪目立ちしそうだ。


「時間がない。向こうで外せ」


「ああ」


 あわただしく、出発した。

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