第4話 ジャイアント・キリング


〈やっぱり無理かー。なんだか君ならやってくれそうな気がしたんだけど……〉


 残念無念だという神の言葉通り、もはや二体の俺は満身創痍まんしんそういかたや呑み込まれる寸前で、片や角のような突起物で串刺しだ。この状態となっては動けない。


 やはりゾウリムシが捕食者にあらがうなど、無理無茶無謀だったようだ。


 されども──。


〈えッ!?〉


 ──であれば話は変わる。


 俺の意識は五十匹分のゾウリムシ。


 一匹は食われ、一匹は串刺しとなって──それがどうしたァッ!


 さあ、遠慮することはない──俺ごとやれ!


 などと自作自演で盛り上げれば、ゾウリムシの流星群が四方八方より降り注ぐ!


 一発目──俺の背部へゾウリムシが直撃。

 ねじ込む衝撃でもって、俺に刺さっていた捕食口を弾き出す。


 二発目──吹っ飛んだ捕食者へゾウリムシが追撃。

 なおも捕食されている俺の意識をマーカー代わりに、弾丸と化したゾウリムシたちが次から次へと押し寄せる!


 三発、四発、五発と迫撃が続き、捕食中の俺を吐き出そうとするほどに揺らぐ相手。


 対するこちらは口の中にて全力抵抗。

 体をよじって繊毛せんもうをうねらせて、絶対に出てやるかと口の中に踏み止まる!


 そうやって押し合いへし合いしている最中、突然捕食者と俺の間に鋭い針のようなものが出現した。


〈……槍状の放出体? トリコシスト放出か!〉


 神の反応的に、なにやらゾウリムシに備わる防御反応らしい。


 意識して出したわけではないが……効いているのならば良しッ!


 トリコなんちゃらがばら撒かれ、もはや口内はとげまみれ。流石の捕食者も動きがにぶる。


 まさしく絶好の機。しからば突撃あるのみッ!


 勇敢なる戦士たちよ、俺に続けェ!


 必ッ殺ッ! 渦巻くヴォルテクス・流星撃ックラァァァッシュッ!!!



 螺旋らせん回転を行うゾウリムシたちによる、全力全開の突進が殺到し──捕食者の微生物は、粉と砕けて藻屑もくずとなった。



◇◆◇◆



〈驚いた。いいもの見れたよ〉


 生物史に名をきざむであろう激戦を終えた後。


 現在、俺たちは絶賛お食事中である。疲れた体を癒すためでもあるし、勝利を味わうために必要なプロセスでもある。


 やってやったぜ!


 高速遊泳可能で圧倒的な力までをもそなえる絶対者。よくこの身で勝てたものだ。

 まあ、数でゴリ押した感が濃いけども。


 などと先の戦闘を振り返りつつ、みょももも~とかてを吸引。食料は粉々となった捕食者の残骸ざんがいだ。


 神いわく、こいつはディディニウムという名の微生物らしい。自身の身の丈ほどのサイズのゾウリムシを日に何度も食べる、恐るべき大食漢たいしょくかんなのだという。


〈数の利があるとはいえ、狩っちゃうとはねえ。大したもんだよ。自然界でもほとんど例がないんじゃないかな〉


 キャラ崩壊なんじゃないかと思うほど感心し、俺を褒め称える邪神様。


 どうやら偉業を打ち立ててしまったらしい。

 ガハハハ。敗北を知りたい。


 心地よい達成感と勝利の余韻よいんを味わいながら、ゾウリムシの生も案外悪くないものかもしれないな──と、考えていたその時。


〈ぶッ。また食べられてる!〉


 ほげぶッ。


 不意に襲い来る、体を圧し潰すような不快感である。


 ねばねばの中へ沈んでいくような得も言われぬ感覚に加え、愉快そうな神の反応。俺たちの内の一匹が捕食されていることは間違いないようだ。


 やれやれ。微生物の生というものは、気の休まる時など無いらしい。


 ディディニウムの捕食を取りやめ取りかじいっぱい。左へぐるりと旋回し、捕食中の何者かへと突進を開始する。


 一匹食らえば周りが逃げ出すとでも思ったか? 甘いぜ。何せ俺たちは全ての個体が一つの意識。そこいらのゾウリムシとはモノが違うからなあ!


〈ほんのついさっきまで生贄いけにえ作戦に出てたのに、よく言うよ〉


 などという呆れ声を無視し、突進加速。繊毛を全力でぎまくり、速度を増して増して増しまくる!


 迫りくるを前に、ぶるりと震える謎の捕食者。


 後悔したってもう遅いぜ──俺たちの戦いはこれからだ!



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転生したらゾウリムシだった件 ~目すら見えないけど、微生物ならではの力で無双します~ 犬童 貞之助 @indo_sadanosuke

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