最終話 終章・聖暦一〇四〇年

 聖暦一〇四〇年、銀の月十五日――


 親愛なるイーファ・オコナー様へ。

 フォーリー家を代表して、シャノン・フォーリーがお手紙を差し上げます。


 ――首都は今頃、年末年始の準備で大忙しでしょうか。大都会の年越しだなんて、ちょっと想像がつきません。

 イニシュカ村は相変わらず。寒い日が続くので、温泉がいつもより繁盛しています。


 先日は、貴著『ビビアンの冒険』を島に寄贈して頂き、どうもありがとうございました。早速みんなで読んでいるところです。うちの弟のケニーなんてもう夢中で、一生枕元に置いておくつもりじゃないかしら。


 父も母も、イーファおばさまが夢を叶えて作家になった事を、本当に喜んでいます。


 最近あった事について、少しお伝えしますね。実は、父の昔の友達が何人か、イニシュカを訪ねてきたんです。

 世界中を旅している有名な冒険者の、フェリックスとシェーナ夫妻。それと、こちらも有名なエアランド州の冒険者、マデリーン・ベックフォードさん。

 遠くアシハラ国から、ながーいスクロールの絵が贈られてきたので、それのお披露目会を開く事になったんだそうです。


 父や父の友達から、思い出話をたくさん聞きました。家に飾ってある勲章を貰った時の事だとか、父と母のお揃いの杖が、どんな風に活躍したとか。


 それはとても楽しい夜でした。でも、私は少し不思議に思ったんです。

 父の知り合いには、英雄と呼ばれるような凄い冒険者の人がこんなにいるのに、父はずっとイニシュカで、治療院と湯治場を行ったり来たりして働いています。


 父の最後の旅は、私達を連れて、南部のサウスティモンという村を訪ねた時。

 それも楽しかったけど、ハラハラするような冒険じゃありませんでした。村の学校の図書館で、アビゲイル・スウィンバーンという昔の学者さんが書いた論文を見つけ出して、世の中に発表するための旅だったそうです。


 冒険者の仲間の人達が帰ってから、私は父に聞いてみました。


「お父さんは、本当は有名な英雄になれる人なんじゃないの? なりたくなかったの?」


 父は考え込んだけど、すぐに答えてくれました。


「父さんは、母さんやシャノンやケニーと一緒に、この島で暮らしとる方が幸せだけん」


 凄い冒険者になって、幸せになる人もいるけど、そうでない人もいるんだそうです。


 私は、少しだけ憧れています。大冒険をして、世界を救ったりして、それで勲章を貰うような英雄になる事に。

 でもまずは、来年の受験を乗り越えないといけません。アンバーセットの街に行って、サングスター魔術学校を受験するんです。それだけでも、今の私には物凄い大冒険に思えます。


 父は言っています。

 世界はとても広くて、私はこの先、何にでもなれると。


 これから猛勉強の日々です。勉強に疲れた時には、イニシュカ温泉に入って……それから、また父に思い出話をねだろうと思います。

 父の思い出話は、大体、こんな風に始まります。


「うちのパーティーはな、全員ヒーラーじゃったんよ」




  【うちのパーティー、全員ヒーラー 完】

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うちのパーティー、全員ヒーラー ~お風呂屋さんはじめました~ 白蛇五十五 @shirohebi55

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