第3話「パンツとブラを投げ捨てたのは誰だ?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや…ナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイ…それはない!学生服ってのはあり得ない!百歩譲ってメイド服はあり得たとしても、学生服ってのは絶対にない!よし!わかった!確かめる!パンツも靴下もシャツも全部まるっと確かめてやる!どーせコスプレ用のちゃっちい学生服風の制服だろ!」


 俺は女がトイレに行った隙に、置いてあるその衣類を確認することにした。

 既に俺は冷静さをなくし、そもそも学生服風の制服が俺の部屋にあること自体がおかしいということなど、ミクロンも気にしていなかった。

 そして、俺は布団から出てその衣類を調べ始めた。

 パンツ…薄い水色でレースの装飾が非常に可愛い。これは問題ない。学生だろうがババアだろうが可愛いパンツは普通に履く。

 ブラ…パンツとお揃いの薄い水色でレースの装飾が非常に可愛い。これも問題ない。可愛いデザインのごく普通のブラだ。いや、大きさは普通よりも大きい。D、いや、少なくともEカップはあるだろう。

 とりあえず下着に問題はなかった。

 俺は床に転がっていたパンツとブラを拾うと左手に持ったままソファーへと近づいた。

 その時、トイレに行った女が戻ってきた。


「あれれれれえ?おにいさん、それは私のパンツとブラジャーですよお?何でおにいさんがそれを持っているんですかあ?」


「うなっ!?」


 ヤバイ!!!!!!!!!!!

 この状況はヤバイ…今の俺はどうみても下着を漁る変態だ。どう言い訳しても最悪の事態にしかならない気がする。

 目の前にいる全裸の女は肢体を隠すことなく俺を見ていた。その瞳はどういう状況なのか全く理解出来ていないという様に見えた。

 これは言い訳をしてみる価値はあるかも知れない。俺は女を見てそう感じた。

 普通ならば自分の下着を持っている男がいたら女は驚きの言葉が出すはずだ。それは、女がしたような落ち着いた問い掛けではなく、大きな声だ。つまり大声だ。

 たが、女は驚いている様子はない。いや、心の中では驚いているのかも知れないが、少なくとも表面上は驚いていない。驚いているならば口調や表情に出るはずだ。こんなゆっくりとした口調のままで無垢な子供のような眼差しを送れるはずがない。

 俺は言い訳をするために口を開いた。


「あー…その、なんだ…ほら、床に転がしておいたら踏んで滑るだろ?危ないだろ?な?つかダメじゃんか、脱いだ物をその辺にうっちゃっるなんて。ちゃんと片付けないと」


 完璧だ!我ながら完璧な理論武装だ!

 俺の口から放たれたその言葉は芸術的と言えるほどに完全な理論を形成した。

 その完全な理論は女にも通じたみたいだった。


「ははあ、そうですねえ。ごめんなさあい。でもお、それを床にうっちゃったのはあ、おにいさんですよねえ?」


「うへっ!?ななな、それどゆこと!?」


「うふふふふ。昨日の夜にい、おにいさんがあ、そこの布団の中で脱がして投げ捨てたんですよお?覚えていないんですかあ?」


 女のその言葉に俺は戦慄した。

 女は俺が手にしたこの下着、目の前にいる若い女の物と確定したこの下着、それを俺が女から脱がして床へ投げ捨てたらしい。

 俺はその行為を女にした心当たりはないが、その行為には心当たりがあった。

 俺は女と…この場合の女は目の前にいる若い女ではない。それはさておき、俺は女と行為に及ぶ際、脱がした下着をその辺に投げ捨てる癖がある。そして、目の前にいる若い女の下着はさっきまで俺とその女が寝ていた布団の付近の床に無造作に転がっていた。これはつまりこういうことだ。

 らしい…

 らしいという曖昧な言葉になるのは仕方がない。なぜなら俺は昨日の夜の記憶が全くない。覚えていないのだから「らしい」と言う他に言い様がない。


「………………………マジ?」


 やっとの思いでその言葉を放った俺の声は少し震えていた。


「マジですよお。おにいさん、昨日は激しかったですねえ。あんなに激しくしてえ、私はあ、だったんですからねえ。すっごくう、痛かったんですからねえ」


「あ……うん、ごめんね。えっと…じゃあとりあえずコレ返すわ」


「ありがとうございますう。ではではあ、着ちゃいましょお」


 俺が下着を手渡すと女はそれをゆったりとした動きで身につけた。

 今まで幾度となく見てきたはずのその下着を身につけるという女の仕草は、今まで見てきたどの女の仕草よりもスローモーションで、まるで俺の人生の走馬灯を見せられているようだった。

 下着をつけ終えた瞬間に女は何かを思い付いたらしく、動きを止めたままの俺のことなど気にも止めずにこう言った。


「あ、やっぱり着ても意味ないですねえ」


「え???どうしたの?」


「だってえ、昨日からシャワーを浴びてませんからあ。…あのう、出来ればシャワーをお借りしたいのですがあ、良いですかあ?」


「あー、シャワーね。うん、いいよ。こっち来て」


 俺は女を風呂場へ案内し、タオルの場所などを説明すると脱衣所を出た。

 脱衣所を出るとき、女に「一緒にどおですかあ?お背中、お流ししますよお?」と言われたが、俺はそれを丁重に断った。

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