第5話「ああ、懐かしの我が母校よ」

「何度見ても鷹峰おうほうの校章だよなあ……一体どういう事なんだ?」


 俺は女のブレザーに縫い付けてある校章を何度も見直したが、何度見ても結果は変わることなく、俺の母校である鷹峰学院の校章だった。

 あり得ない。これはあり得ない。

 夢か幻かはたまたたちの悪いドッキリか、とにかく鷹峰学院の校章が女のブレザーにあるのはあり得ない。なぜなら鷹峰学院は代々続くだからだ。

 俺の卒業後に共学になったという話も聞いていないし、男子校であるが故にスカートも女用の制服も存在していない筈だ。

 しかし、目の前には現に鷹峰学院の校章が縫い付けてある女物のブレザーがある。

 謎、謎、謎…

 見知らぬ女、全裸で添い寝、男子校の女物のブレザー…

 謎が俺の頭の中を駆け巡っていた。


「…いや待てよ?」


 混乱する俺の頭に天啓てんけいにも似た閃きが走り、俺は思わず呟いた。いや、そもそも頻繁に独り言を呟いているが…それはともかく、俺は独り言でその閃きを分析する事に決めた。


「俺はなぜすぐに気がつかなかったんだ。…あの子、男なんじゃないのか?あの胸も実は特殊メイクとかそんな技術を用いた偽物で、股間にバベルの塔が付いていなかったのはあの子がカストラート歌手だからだ。あの声もそれならば納得がいく。そうだ!絶対に間違いない!風呂から出てきたら今度はちゃんと股間を確認しよう!カストラートなら女としてあるディクテオン洞窟がそこにはない!なければ俺は潔白だ!」


 正直、自分でも苦しい仮説だと感じるが、俺はそれしかないと思った。

 ちなみにカストラートとは、英語で「去勢された」という意味の言葉であり、イタリアに実在した去勢された男性歌手の事だ。

 変声期を迎える前の男児を去勢する(=睾丸を除去する)事で女性とも男性とも異なる声を得る事が可能となり、その歌声は神の領域とも言われる。

 神云々はともかく、誰もが選ぶことがなく生まれ持った性を、まだ子供である変声期前に改変する事で独特な声を得るカストラートだが、声を理由にして男児を意図的に去勢するのは人道的にあってはならないとされ、もう百年近く前に最後のカストラート歌手が亡くなって以来存在していないとされている。

 されているというのは、あくまでも表向きは存在していないものの極一部の悪徳な金持ち達がそれをしていないとは限らないからだ。


「何が潔白なんですかあ?あー、そのブレザー、私のですねえ」


「うへっ!?あ、そうだな。ところでちょっといいか?」


「はいー?なんですかあ?」


 突然声をかけられた俺はあからさまに動揺したが、意を決してそれを切り出した。


「あのさ、ちょっとパンツ脱いで股間を見せてくんない?」

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