第9話「女の正体」

「ちょちょちょちょちょちょ!!!ちょっと待った!!!おおまお…お前!!そそそ、そのハンカチどこで!?!?あっ!!!お、お前まさか!?」


「あー、やっと気がついたんですかあ?お、に、い、さん。うふふふふ」


「おま………お前ふざけんなよ!!!マジで焦ったんだかんな!!」


 俺は思わず女に怒鳴り付けていた。

 女が俺の汗を拭ったハンカチが全ての答えだった。いや、そのハンカチが俺に答えを思い出させた。

 そのハンカチは確かに女が鷹峰おうほう学院のである証であり、俺が潔白である証だった。

 それは、俺が高三の時の文化祭の記念ハンカチだった。それを持つ人間は当時の鷹峰学院の生徒以外にはしかいない。

 当時の俺は鷹峰学院の学生会長だった。

 天下の鷹峰の学生会長になった者には会長特権というものが与えられる。

 会長特権はたった一度だけ発動出来て、その効力が凄まじい。なぜならまでで実現出来る倫理的且つ人道的に許される行為を叶えられる。

 五十億、円ではない。五十億、ドルだ。ちなみにアメリカのドルだ。つまりは現在のレートならば五千億円以上になる。

 鷹峰学院の学生会長はそれをたった独りで何に使うか決められる。

 あまりの額の多さに恐れおののき、鷹峰学院の歴史(創立八十年弱)の中で会長特権を発動した生徒は今のところ二人しかいない。

 その内の一人は鷹峰学院の創立者にして初代学生会長である鷹峰たかみね鷹峰おうほう氏、そしてもう一人はこの俺だ。

 鷹峰氏は当時の世界情勢が混乱していた事を危惧して鷹峰学院を創立した。当時弱冠十七歳にして世界の未来を憂えて創立したらしい。十七歳の若者がどうやって財を気づいたのかは説明していたら半年は掛かるため省略する。

 鷹峰氏は会長特権を実行したが、その内容が凄かった。

 十七歳にして世界有数の財力と権力を持ち、覇王とまで称された鷹峰氏は両親を既に亡くしていたのだが、鷹峰氏は親孝行がしたいと言って会長特権でを作った。

 そう、それこそが母の日と父の日だ。

 公には由来は別にあるとされているが、日本での両日は鷹峰鷹峰氏が会長特権を行使して制定した日なのだ。

 その際に根回しとして掛かったのが当時の五十億ドルだったことから、以降の会長特権は五十億ドルまでで実現出来る事に限られる事になった。だが、前述の通り、額の多さや鷹峰グループとの関係から会長特権を行使する者は長らくいなかった。

 しかし、俺は会長特権である事を実行した。

 それは…


「申し訳ありません。学生会長マスター。私の存在をすっかりお忘れになっていた様なので少々悪ふざけを致しました」


 女…いや、鷹峰たかみね鷹花おうかはそう言って俺に頭を下げた。

 鷹峰鷹花…こいつは俺が会長特権で創造つくらせた世界唯一の超高機能搭載の人型ロボット、簡単に言えば非現実フィクションに出てくるアンドロイドなどと呼ばれるものだ。

 つまり、こいつは人間ではない。

 製作以来、何度もメンテナンスをして改良されているらしく、極めて高機能な回路と職人による手作りのボディーや表情など全てにおいて人間そのものであり、日に日に人間を身に付けているという話は耳にしたことがある。

 こいつの設定としては当時の俺の同級生、つまりは高三であり、鷹峰学院の歴史上で唯一の女子生徒にして無二の特待生であり、こいつは高三のまま卒業することはない永遠の女学生だ。

 俺は卒業以来こいつを見たことがなく、あれからどうなっていたのかは全く知らなかったが、まさかここまで人間っぽく進化しているとは思わなかった。

 それはさておき、俺は淫行も何もしていなかった。

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