主人公の性格がややクセはあるものの、エンターテインメントとして良

<忘れられ師(ロストネーマー)>などと噂される冒険者がいる。
その冒険者が参加したパーティーは破竹の勢いで名を馳せ、そして、
唐突に没落する。
いくつかのパーティーが同様の盛衰を見せているうち、まことしやかに
囁かれるようになった冒険者。
その冒険者は、聖女であり勇者でもある聖勇女ロミナが率いるパーティーに居た。そして、彼女らは世界を絶望させる魔王との戦いに臨む折、
パーティーに居た冒険者の男、カズトを追放する決断を下す。
そう、そのカズトこそが<忘れられ師>だった。

まず、追放ジャンルの中でも異彩を放つストーリーライン。
その根底には"絆"があります。

流れとしては、起点となる出来事があり、盛り上がりを見せる中で、
途中にあるきつい展開で不安を誘い、解決した後、つかの間の心温まる交流。
進行するごとにお互いに心を傷つけあっているメンバー、ともすればメリーバッドエンドな終わらせ方しか思いつきませんでした。
それでも、彼らはみんなが笑える日を夢見て、かつてパーティーであった、
仲間であった時の絆をよりどころに文字通り血を流し、寄り添おうと
もがき続けます。そして、絆を信じあった結果、彼らはまたともに冒険に
出ることになるのです。
きっとみんながいつまでも笑ってそれぞれの未来を語れるように。

パーティーを組みなおせば記憶が戻るギミックが中々につらい。
全員がお互いを思いあっているから、主人公を忘れてしまうことになる選択を
してしまったことを激しく後悔する。
また、陰キャを自認する主人公が、確かに所謂陰キャと呼ばれるタイプの
人達って、少なからずこういう、極度に自信は無いけど、誰かのために
なるならと思ったときは奮闘するタイプっているよね?というのを
そのまま当てはめたような人物像です。
この性格が相まって、個人的には理解しがたいところも確かにあったのですが、
ふと自分が過去に相対した人たちの中で、こういうタイプの人っていたかもしれない、と思い出し、英雄と讃えられようと、過去の経験から来る
自己否定の表現は、生の人間なんだな、と思わせてくれまして、
そのあたりの心情の描き方が素晴らしい。

傾向としては、古い作品ですが、卵王子カイルロッドの苦難シリーズを
好きだった方なら多分ハマると思います。
(カイルロッドも自己肯定感がかなり低い人物だったなあと思い出しました)

第三巻のラストがまさにかぶる感じだと思います。

あらすじに惹かれたならば、カズトたちの綴る物語をぜひ体験してください。

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