異世界転移者であるカズトが、Sランクである聖勇女パーティーから追放される場面から始まるこの物語。追放の理由は昨今流行りのざまぁではなく、「カズトがいるこの世界に生きて戻ってきたいから」。
カズトを思いやったメンバーの思いにより、彼はパーティーを追放されることに。
だが、見た目はCランクのお荷物であるカズトは、実は「ロスト・ネーマー」という特殊なスキルの持ち主だった──
昨今流行りの追放、ハーレム、チートの要素を含みながらも、優しく、愛に満ちた物語です。
主人公のカズトは「ロスト・ネーマー」というスキルの持ち主。見た目はパッとしない彼ですが、パーティーに所属している間は、そのパーティーに多くの成功をもたらします。しかし、その代わりに一度パーティーから外れると、その存在を全て忘れられてしまうのが特徴。この設定が物語の主軸となり、主人公カズトのキャラクター性を際立たせています。
勿論、序盤でパーティーから追放されたカズトは、今まで共に戦ってきた全てのメンバーからその存在を忘れられてしまいました。
しかし、聖勇女パーティーのメンバーであったロミナが魔王討伐の際に重い呪いを受けてしまい、その呪いを解くためにカズトはまた彼女達聖勇女パーティーのメンバーと行動を共にすることに。カズトはこれまでの彼女達と過ごした日々や思いをしっかりと覚えていますが、パーティーを組んでいた彼女達はカズトのことをすっかり忘れています。
存在を忘れられていても、共に過ごした日々を無かったことにされていても、カズトはかつての仲間の為に時には命を懸けて彼女達の力になる為に奔走します。
この「忘れられる」という設定が物語に絶妙に絡んでおり、孤独な中目的に向かって邁進するカズトの思いに、読者は時に切なさを感じながらも彼を応援せずにはいられません。
また、カズトや他キャラクター達の心情描写をしっかり書いてある為に、感情移入がしやすいです。
実は聖勇女パーティーのメンバーは全て女性。一人一人が魅力的で、カズトへの思いやりもある優しい子達です。彼女達は、かつてパーティーを組んでいたカズトのことは忘れてはいるものの、心のどこかになんとなく記憶があるようで、彼女達のカズトに対する思いは慈愛に満ちています。
カズトとパーティーのメンバー、両者は互いの存在を大切に思いあっているにも関わらず、記憶がないことでイマイチ伝わりきらない。そのもどかしさが物語にスパイスを与えており、ついついページをめくってしまいます。
迫力のある戦闘シーン、忘れられたことに切なさを感じつつも前を向くカズトの思い。流行りのテンプレに独自の解釈を加え、少年誌のような王道の展開で進む熱い 物語です。
昨今流行りのテンプレに飽きた方も、テンプレが苦手な方も。新しい解釈の「追放系」。一度はお手に取られてみることをおすすめします。
異世界転移者の主人公、カズト。
ある日カズトは、聖勇女パーティーから追放されてしまいます。
仕方のない事だと追放を受け入れるカズト。そしてカズトがパーティーを離れるとパーティーメンバーはカズトのことをすっかり忘れてしまいます。
それはカズトが『忘れられ師《ロスト・ネーマー》』だから。
カズトは彼自身がパーティーにいる間はパーティーに恩恵を与えます。ですがパーティーから外れると恩恵は無くなり、それと同時に彼がいたことをパーティーのメンバーは忘れてしまう……カズトはそんな特殊な能力の持ち主でした。
忘れられたカズトと聖勇女パーティーが再会するというシチュエーションがとっても良いです!
カズトのほうは皆の事を覚えているのに、再会したメンバーはカズトを覚えてない……そんな場面に切なくなりました。
パティーから外されたのに、仲間思いなカズトの姿に心を打たれること間違いなしです☆
友人に「あなた誰?」と聞かれてそれが嘘ではないと知った時、誰もが平静でいられない。また周囲の人も同じようにそう言ったらなおさらだ。昨日までの自分、昨日までの思い出を友人は失い自分は覚えている。世界に人は多いのに、世界で一人ぼっちになる恐怖がそこにある。
でも、自分が最初から忘れ去られることを知っていたとしたら、仲間との出会いからどう対応すればいいのだろう。嫌な仲間ならまだいい。それが最高の仲間で友人達だったら。
この物語は幸せの積み重ねの果てにそれが崩れるのを知りながらも道を歩く、忘られ師の英雄譚です。上質のファンタジーを基盤として、忘れていく、また忘れられたいと望む主人公の強さと弱さが物語を強く印象付けています。そしてその献身的な悲劇をひっくり返そうとする仲間の絆も含めて。大事な人の記憶に留まりたい、愛しい人の記憶を留めていたいという優しさと叫び声が胸を打つ物語です。
パーティーを組んでいる間は仲間に絶大な恩恵をもたらすが、そこから外れた途端に誰からも忘れ去られてしまう(初めから居なかったことにされる)という風変わりな呪いにさいなまされる武芸者の冒険譚。彼はこのままだと生涯を「縁の下の力持ち」で終えるわけだが、半ば諦観と共に運命を受け入れつつも平凡な幸せへの未練を捨てきれない所こそが主人公の大きな魅力と言えるでしょう。
どうせ忘れちまう俺なんかに、構わなくていいから。
でも、良い奴だったアイツ等が不幸になるのを放ってはおけない。
これが彼の行動原理であり、そこには大いなる矛盾をはらんでいるのですが。
これを突き詰めると「困った時にだけ颯爽と現れて、全てが終わった時には風のように立ち去っている」理想のヒーロー像が完成となるわけです。日本ゲーム業界の古参キャラクターにして高名なる冒険家アドル・クリスティンもまた冒険を生きがいとしており、戦いが終われば可愛いヒロインともすっぱり分かれて新天地を目指す孤高の生き方を一生貫いたのです。これこそある意味では男のロマンであり、美学の結晶であります。
されど、人は過去をまったく顧みず生きていけるほど強いのでしょうか?
その答えがこの作品にあります。
冒険の中でしか生きられないのではなく、そもそも冒険の外に「存在しえない」男の悲劇。
冒険を卒業し、生きる場所を見つけたかつての仲間たち。それを見て彼は何を思うのか。
これこそファンタジー界の「男はつらいよ」人間臭い主人公が好きであれば、是非。