忘れ去られ、忘れられたい人。忘れたくない人。

 友人に「あなた誰?」と聞かれてそれが嘘ではないと知った時、誰もが平静でいられない。また周囲の人も同じようにそう言ったらなおさらだ。昨日までの自分、昨日までの思い出を友人は失い自分は覚えている。世界に人は多いのに、世界で一人ぼっちになる恐怖がそこにある。
 でも、自分が最初から忘れ去られることを知っていたとしたら、仲間との出会いからどう対応すればいいのだろう。嫌な仲間ならまだいい。それが最高の仲間で友人達だったら。
 この物語は幸せの積み重ねの果てにそれが崩れるのを知りながらも道を歩く、忘られ師の英雄譚です。上質のファンタジーを基盤として、忘れていく、また忘れられたいと望む主人公の強さと弱さが物語を強く印象付けています。そしてその献身的な悲劇をひっくり返そうとする仲間の絆も含めて。大事な人の記憶に留まりたい、愛しい人の記憶を留めていたいという優しさと叫び声が胸を打つ物語です。

 

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