作品に応援いただいたご縁で、この物語に出会いました。更新分まで読み終えましたので、レビューさせていただきます。
『転移者』という神にも等しいような力を持った者によって、一度は終わったこの世界。その中でまだ続いている、長い後日談のようなこの物語。『メアリー・スー』と呼ばれる、この世界の絶対的な存在に立ち向かっていく主人公達。
この物語は主人公の名前や動機など、意図的に描写していない部分が多くあり、それ故に疑問点が残ることが多々あります。しかし、あれは何だったんだろうと思っていたら、いつの間にかシレっと伏線を回収されたりしますので、読んでいて良い意味でやられます。
随所に見えるキャラクター達の考え方やセリフ回しも興味深く、彼らの何気ない一言について考えさせられたりもします。この辺りは、作者様の博識が故に、というものでしょうか。
主人公達について考えて、メアリー・スーについて考えて、終いには物語自体について考えて……その先に、果たしてどんな展開が待っているのでしょうか。続きを楽しみにしております。
勝てない敵を殺そうとする、狂気の沙汰に挑み続ける異世界ファンタジー。これは一味違いますよ。
他の皆さまも是非読んでみてください。
【第五回白雪賞企画:手記まで読み進めた上でのレビューです】
この物語は一度、異世界からの転移者によって一度は完結した世界だ。
少年は立ち上がる。
メアリー・スーを殺すために……。
この物語の世界観はダークよりになっているが、次話もその次話も「誰もが読む進めたくなる」と思ってしまう作品です!
情景描写や心理描写も丁寧に、よりその情景が浮かぶような世界観にシンプルに物語が面白く目を見開くこと間違いなしの力作となっております!
内容はネタバレになるので、この場では控えますがかなり面白いです(>_<)!
「メアリー・スーの殺し方」
ぜひご覧ください!!
メアリー・スーという人物が登場したのは、スタートレックの二次創作である『A Trekkie's Tale』に出てくるキャラクターがその初めとなります。以後は全能であり、完全な容姿や性格など読み手の理想や妄想をすべて体現した存在、もしくはバランスブレイカーとして言い換えられるようになりました。
本作、『メアリー・スーの殺し方』は異世界からの転移者によって一度は完結した世界において、勇者を殺害し世界に混乱をもたらした「メアリー・スー」という存在を殺すため、「契約」の力を受け継いだ少年が立ち向かうお話です。ただし、少年がその契約の力をシスターから受け継いだ時の言葉は『悪魔よ、最後のお願いです。私の命と引き換えに、この少年に契約の力を与えて』でした。
メアリー・スーも、契約の力も昨今の小説で多く見られるような全能に近い存在でありながら、他作品のように読者の願望を託すような存在ではありません。それどころか、このモノガタリにおいて非常に影のある、アイロニックな存在として描かれています。もともとメアリー・スーはスタートレックファンへの皮肉から生まれた経緯があることを踏まえると、メアリー・スーの創造者が押し付けた世界やモノガタリ(必然・運命)に対する人物たちの反撃がテーマなのかとも考えました。
また、作中の人物のセリフである「生まれ落ちたキャラクターに罪はないってことは言っておきたいね。人から嫌われるキャラになったとしたら、それは作者の落ち度だ」やその他の言葉から、フィクションに上位(メタ)の存在や関わりを感じることができます。名短編である『メアリー・スーを殺して』では自作の中のメアリー・スーを肯定し、また否定することで作者が新しい世界に踏み出していく印象がありました。その対比として考えれば、本作がメアリースーをどのように殺すのか、またそれが作中の人物たちにどのように影響するのか、読み手である私たちが最後に受ける衝撃はどういうものなのか、興味が尽きません。
作者の一水素さんは『世界の監視者』では俯瞰的な視点で物語を描かれています。この物語も登場人物の視点だけでなく、世界すらも点としてを広く見渡せば、きっとメアリー・スーの殺し方を読み解いていけるのかもしれません。
是非、ご一読ください。