忘れられ師の英雄譚 〜聖勇女パーティーに忘れられた男は、記憶に残らずとも彼女達を救う〜【Web版】
しょぼん(´・ω・`)
第一巻
プロローグ:優しき別れ
第一話:パーティーの為の追放
「あなたに、このパーティーから外れてもらいたいの」
ロムダート王国の王都ロデムの中心にある、城に面した王宮の一室。
次の旅路は魔王との最終決戦。
そんな旅立ちの前日という日に、パーティーのリーダーである聖勇女ロミナが、俺に向かって本当に申し訳無さそうに、そう口にした。
そんな表情を見せたのは彼女だけじゃない。
武闘家である獣人族の少女、ミコラ。
万霊術師である森霊族の少女、キュリア。
聖魔術師である天翔族の女性、フィリーネ。
古龍術師である亜神族の女性、ルッテ。
彼女達は皆、目を逸らし、どこか余所余所しそうな雰囲気を見せている。
……ま。そんなもんだ。
一応武芸者の俺だけど、現状役に立てるかと問われたら、表向きは他の冒険者でもできるような活躍しか見せられない。
次の決戦に俺なんか連れていくのは、やっぱり論外だよな。
だから俺はさらりとこう返してやったんだ。
「ま、俺じゃ魔王相手じゃ役にも立てなそうだし。分かった」
ってな。
それで話は終わるって思ったんだけど。
「……そういう言い方、するなよ」
最初にそう口にしたのはミコラだった。
トレードマークである短い赤髪から伸びた、普段ならピンと立っているはずの獣耳をペタリと倒し、はっきりとしょぼくれているのをアピールしている。
普段ならもっと口悪く馬鹿にしてくる、ある意味気さくで腐れっ気のないいい奴なのに。今日は何で妙にしんみりとしてるんだよ。
「一緒に戦いたかった。それは、本当」
普段なら無口で無表情。殆ど話すらしてくれないキュリアも、独特の琥珀色の長髪を落ち着かなさそうに弄りながら、珍しく自分から口を開く。
コミュニケーションに何かと困ったりもしたけど、こいつが嘘だけはつかない正直者なのは、俺もよく分かってる。
だけど、だ。
「そう言ったって、俺が外れる理由なんてそんなもんだろ? あ。俺なんかと旅するのに嫌気が差したかもしれないか。とにかく、俺に問題しかないから──」
「馬鹿にしないで!」
自嘲しつつ苦笑していた俺を一喝したフィリーネが、怒り顔でこっちを睨む。
「確かに実力だけなら、貴方の代わりになるような冒険者なんて五万といるわ。だけどそれだけじゃないから、これまでも共に戦って来たのよ。今更そんな理由で貴方をパーティーから外すなんて、馬鹿げた事するものですか!」
涙の溜まった瞳を隠すように、ぎゅっと魔導帽の鍔を下げ、口を真一文字にした彼女の意外過ぎる反応に、俺は戸惑いしか生まれなかった。
普段なら俺を小馬鹿にしたり、悪戯っぽくいじるばかりのフィリーネが、ここまで俺を擁護するなんて……どんな風の吹き回しだ?
あまりの事に唖然としていると。
「お主はほんに阿呆じゃな。ま、じゃからこそ、お主と歩んだ旅路は、苦しきはずじゃったのに、楽しく、居心地良く感じられたんじゃがの」
齢十五程の外見に見合わぬ口調で語るルッテは、何処か遠い目をし、何かを懐かしんだ顔をする。
確かに約一年。
冒険者として今までで最も長くパーティーを組んできた。
ロミナが聖剣を抜き、聖勇女として魔王に挑むと決めてからも、俺達は幾多の魔王軍との戦いも乗り越えてきた。
パーティー的には女ばかりの中、俺だけ男ってので苦労した事もあるけど。俺だって薄情じゃないし、そんな仲間との日々に、未練だってないわけじゃない。
だけど、どうせパーティー追放なら、さらっと
その方が未練も後腐れもなく、スパッと割り切れるってのに。
「じゃあ、何でだよ」
俺は思わず、相手が話すまで聞くまいと思っていた事を尋ねてしまう。
でも、皆は唇を噛み、何も言わず。
ただ悔しげな顔をするだけ。
何だよ。
何でそんな顔するんだよ。
俺が戸惑っていると。
「その話は、私がした方が良いだろう」
そう言って、部屋に入って来た奴がいた。
勿論、俺達はそいつを知っている。
華やかな正装に身を包んだ、金髪の爽やかなイケメン。この国の王子、マーガレスだ。
魔王討伐の為、俺達を陰から支えてくれたいい奴なんだけど……。
まさか。お前が裏で糸を引いて──いや。ありえない。
こいつは他国の王子や貴族と比べても、比較にならない位いい奴だ。
俺だって悪いが人を見る目はある。こいつがそんな奴だと見抜けない訳がない。
それに実際、部屋に入ってきたこいつの顔も、人を嘲笑うどころか、申し訳なさしか見せてないんだから。
「君が抜けた分は、聖騎士である私が加わる事になった。無論最終決戦。我が国や他国の精鋭も含め、多くの者が決戦に参加するが、魔王の喉元に斬りかかるのは我々六人。彼女達をできる限り護り抜いてみせるから、君は安心して待っていて欲しい」
真剣な目で語るマーガレスの言葉。
俺はそこにひとつだけ、違和感を感じた。
「……待ってろって、どういう事だよ」
思わず低い声で、牽制するような声を出したけど、正直心に余裕なんてなかった。
俺はパーティーから追放されるんだ。
そんな俺に待てってなんだよ。
俺の居場所なんかもうなくなるってのに。
露骨に悔しそうな顔をしてたんだろうな。
ロミナが藍色の長い髪と同じ色の瞳で、覚悟を決めた凛とした顔で俺を見つめてくる。
「あなたは戦いに加わらず、ここで待っていて欲しいの」
「だから! どういう事だって!」
視線を逸らさずじっと見つめ返していたロミナは、俺の叫びに少しだけ唇を噛んだ後、静かに、こう口にしたんだ。
「私達が……生きて帰るんだって、思えるように」
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