第8話 そんな、初デート3

パフェを食べながら、そして食べ終わってからもいろんな話をした。

ピアスよりもイヤリング派で、普通のハンカチよりもタオルハンカチが正義だと思っていること、実はサボリーノの愛用者だってところに親近感を感じた。

また、ちーちゃんは最近OLを辞めたことも話してくれた。

「仕事は楽だったし、好きなことも少しは出来たから居ても良かったんだけど‥」

「嫌な人がいたとか?」

「んー、ちょっと嫌味言う位の人はいたけど、それはどこでもいるでしょ?」

まあ、そうよね。

「ちょっとやり残したっていうか、心残りなことがあって‥」

「夢追っかける系のこと?」

「そう、かな。あたし、もう一回大学に行きたいの。」

「もう一回、って?」

「入学はしたんだけど、一年生の夏で中退しちゃったんだ。」

「え、どこ大学とか聞いても良い?」

「‥K大」

すご。

「塾とか行かせてくれる家じゃなかったし、親も親だったから、どうして合格したのか自分でも分かんないけどね(笑)」

いやいや、でも、すご。

ちーちゃんはお店の中をキョロキョロと見渡しだした。

「ちょっと混んできたね。そろそろ出ましょ。」

ちーちゃんはそう言ってバッグを手に取った。

パフェの代金を支払い、マスターに会釈をして店を出た。


店を出ると、空は更に青くなっていた。

「さて、どうしましょ?」

ちーちゃんに聞いてみる。

「えーっと、どうしよ。駅の隣のビル行く?」

駅の隣の雑居ビルへ行くことになった。ここからは歩いて10分ぐらいか。

パフェの感想なんかを話しながら歩く。

でも、あたしの中でそれはどうでも良くて、ちーちゃんと歩いていること、それ自体がとても嬉しかった。

と同時に、ある欲求が芽生える。


手。


手が繋ぎたい。


いやいや、ここは街中だし、出会って間もないちーちゃんにそんなこと言えないし。

でもでも、今日の雰囲気ならいけるんじゃないの?あたしの勇気次第じゃないの?

いやいや、それで引かれちゃったらどうしよ。色々終わっちゃうじゃん。

でもでも、数十センチ横にいるんだよ?

いやいや‥でもでも‥


そんなことを考えながらちーちゃんの言葉に生返事していたので、様子がおかしいことはすぐにバレた。

「ユキちゃん、どうかした?」

「ああ、えっと、うん。」

「?」

あたしはスマホをカバンから取り出して、ちーちゃんにメッセージを送った。

ちーちゃんのスマホから音が鳴る。それを確認するちーちゃん。

メッセージは一文字だけ。

「『手』」

「どういう意味?」

ちーちゃんは不思議そうに尋ねた。

もう一度メッセージを送る。

「『Shake hand』」

ちーちゃんはメッセージを確認すると、右手をそっと差し出した。

あたしはそれでも握るのをちょっとためらっていると、ちーちゃんが突然ぎゅっとあたしの手を握る。

驚いてちーちゃんの顔を見ると、ちょっと怒ったような、恥ずかしさを堪えているような表情だった。

「何でメッセージ英語なの(笑)」

ちーちゃんの顔をもう一度恐る恐る見ると、恥ずかしそうに笑っている。

それを見て、あたしも安心して笑った。


「新幹線、乗るよ!」

ちーちゃんはそう言って駅への道のりを急ぎだした。

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