そんな、ふたり

凛輝

第1話 そんな、毎日

夜勤明けに誰もいない田舎の海岸にひとり、ボーッと座るのが好き。

ただボーっと。

特に今日は暖かくて、風もちょっとあって、海岸に佇んでいるだけで、多幸感が押し寄せる。


ああ、今日もよく頑張ったー。

お風呂入りたいなー。

入浴剤まだあったっけ。

まるごとバナナ食べたいなぁ。


取り止めないことが頭の中に浮かんで、消えて。

うつらうつらと30分ほど。


スマホを見ると、彼女からのメッセージ。

何となく確認するのが億劫で、未読のままにしておく。

多分「ご飯作ったよー」か「お風呂溜めとくよ?」みたいなメッセージでしょう。

つまり、こいつはあたしに早く帰って来て欲しい。

かわいいなあ。


一緒に住み始めてまだ2週間。

あたし史上最高に幸せな時間が心のファンファーレとともに始まった。

それは彼女も同じだっただろう。

「友は幸せを2倍にし、悲しみを半分にする」って言うけど、もっとレバレッジかかってます!


さて、女同士の愛の巣に帰って来た。

玄関でショートブーツを脱いでいると、彼女が出迎えてくれる。

「お帰りなさいご主人様(笑)お風呂もご飯もオッケーだよ。」

「ありがと。ちーちゃんもオッケーですか?(笑)」

一瞬ポカンとしていたが、意味を分かってくれたようで、小さな顔から、更に小さな声で「‥オッケーです」と聞こえた。

「お腹すいちゃったよ」

ちーちゃんの作ってくれた和風パスタを一緒に食べながら、録画したドラゴン桜を眺める。

「東大かぁ」

ちーちゃんが呟く。

「ちーちゃん行けたでしょ?」

「どーかなあ、環境的にねえ。周りの理解とか、勉強できる環境とか、無かったし。」


食べ終わったお皿を洗いながらちーちゃんに話しかける。

「お風呂なんだけど」

「好きな入浴剤入れといたよー」

さすがちーちゃん。

「ありがとう。で、お風呂にもう一つ好きなもの入れていい?」

「何?」

「ちーちゃん」


同姓の恋人なんて憧れるだけで手に入ることはないと思っていた。

その代わりと言っては失礼だけど、小洒落た異性と付き合っていた時期があった。


彼は小洒落ているだけあって、異性の友達や流行りの店でバイトしている子とも知り合いだった。

ガールズバーで友達がバイトを始めたとのことで、デートの場所としてどうなんだろ?と思いつつも、あたしも興味があったので覗きに行くことになった。


そこは綺麗な子がどセクシーな格好で笑顔を振りまき、絶対彼よりアタシの方がドキドキしていたと思う。

彼は友達を見つけるなり話し込んでしまい、あたしは集団の孤独を味わう羽目になった。


「初めて来たの?」

綺麗なんだけど、他の女の子みたいな浮つきの無い子がスッと隣に座る。

「あー、はい。綺麗な子ばっかりですね‥」

「あなただって」

そっと太腿に手を置かれる。

「チカです。あなたは?」

「ユキです」

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