第9話 そんな、ショートトリップ
新幹線に乗る?
駅へ急ぐちーちゃんの顔を見ると、どうやら本気らしい。
繋いでいる手の握力からも本気なのは伝わってきた。
「ちーちゃん、新幹線、乗るの?」
「乗るよー。」
「えっと、どこ、行くの?」
「海!」
新幹線で海?近くにも海あるけど?
「海って、どこの海?」
「あたしの出身地の海岸。」
なるほど、それは新幹線だわ。
「ユキちゃん、明日お休みだよね?帰り遅くなっても良いよね?」
ちーちゃんとなら勿論です。あたしはちーちゃんの目を見つめながら頷いた。
駅に着いた。
あたしはあまり持ち合わせがないことに気づき、ATMを探そうとしていたら新幹線のチケット代はちーちゃんが奢ってくれた。チケット購入がとても手慣れていた。
目的地への新幹線は大体15分後に来るみたいだ。
空は今もとても青く、空気は爽やかだった。
あまりに気持ちが良いので、プラットホームで列車を待つことにした。
「ちーちゃんは出身地へ行くのは久しぶり?」
「そうでもなくって、しょっちゅう帰ってるよ(笑)。実はあたしの実家は今誰も住んでいなくて。あたしが鍵持ってるんだ。」
「へー!それって別荘だね。」
「んー、まあ、言い方によっては(笑)。帰る度に掃除してるんだけど、それだけでちょっと疲れちゃうんだ。管理サービス入れても良いのかもしれないけど。なんとなく自分でやった方がいいかなって。」
ちーちゃんって、お嬢?
聞きたかったけど、なんとなく止めておいた。
ちょっとした沈黙。通過列車の風でちーちゃんの帽子とあたしのスカートが揺れる。
「海かあ。」
あたしがぼそっと呟く。
「嫌だった?」
「そんなことないよ!久しぶりだなあと思って。」
あたしは慌てて否定する。
「えっと、その海って泳げるの?」
少し話題をずらしてみる。
「うん、一応海水浴場になってるよ。海の家も建つし」
「今の時期ってまだ泳げないよね?」
「ちょっと早いかなぁ。水が冷たくて風邪ひいちゃうかも(笑)」
泳げたら楽しいだろうなあ、あ、ムダ毛生えてるから水着になれないや(笑)
やがて目的の列車が来た。
慣れたちーちゃんにエスコートされて席へ着く。
ちーちゃんが窓側に、あたしが通路側に座った。
席に着くと、お互いに求め合っていたかのように手を繋いだ。
手を差し出すタイミングがほとんど同時で、可笑しかった。
指を絡め合うのって、気持ち良い。
そしてあたしは今、一人とてもドキドキしている。
ちーちゃんはどうなんだろう。
ドキドキしてくれていると嬉しい。
顔を見ようと思ったが、ちーちゃんは外を眺めていた。
こっち向かないかな、と思いながらしばらくあたしも外を眺めていると、ガラス越しに目が合って、二人とも吹き出してしまった。
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