第10話 そんな、ショートトリップ〜キス〜
新幹線の車内は意外と空いていた。
前後左右の席にとりあえず人はいないようだった。
ちーちゃんと手を繋ぎ続けて約1時間。
他愛無い話をしていたんだけど、あたしはお察しの通り上の空だった。
ずっと軽い興奮状態とでも言うか、ドキドキしている。
このドキドキは何だろう‥
自分で気づいてしまった。正確には、気づいていた。もう認めないわけにはいかない。
これは、恋のドキドキだと。
「恋」
「恋」
「恋」
これはもう、意識してしまったら、だめだ。
恋に操られる。
繋いでいる手は勿論、穏やかに動く口、丸く澄んだ目、白い肌、華奢な肩、その白いシャツさえも、全てが愛おしくなってしまった。
ちーちゃんも恋に操られて欲しい。
あたしとの恋に浸かって欲しい。
あたしから離れないで欲しい。
あたしはついに、自分の思いを抑えきれなくなった。
ちーちゃんの頬に、口づけを、した。
ちーちゃんはびっくりした顔を見せたあと、一瞬あたしを見つめて俯いた。
あ、やっちゃった。やっば、どうしよう・・
と思っていたらあたしもほっぺにチューをされていた。
ちーちゃんがボソッと呟く。
「あたしも、おんなじ気持ちだから‥」
しばらく気まずい、そして甘酸っぱい、不思議な雰囲気をあたしたちは堪能した。
新幹線とレールが奏でる「カタタタン」という音。
時折流れる車掌のアナウンス。
「あ、もうすぐ着くよ!」
ちーちゃんが今までの雰囲気を振り払うように少し大きな声で言った。
降りなきゃいけないのは分かっているんだけど、あたしはこの甘酸っぱい雰囲気をもう少し堪能したかった。
席を立ち、デッキへ向かおうとするちーちゃん。
それについて行くあたし。
手は繋いでいない。
デッキで駅へ着くのを待っている間、あたしはもう一度あの空気を作りたくて、いや、本当はちーちゃんが愛おしくて、もう一度頬に口づけをした。
今度のちーちゃんはあまり驚く様子はなかった。
しかし、しっかりと頬を赤らめて、無言で手を握ってくれた。
そんな、ふたり 凛輝 @yuki_openheart
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