怨嗟を穿つ後奏曲(ポストリュード)
見かけこそ大きく変わっていないが、
「くっ、たかが一人二人の心のための復讐で、貴様は私に救われる人々すら否定するのか……!」
「救われる?それらしい屁理屈を並べれば正当化できると本気で思っているのか?意思を奪い、道を塞ぎ、中毒にしてまで体を差し出すまで黙らせる……それは救いではなく、侮辱だ!」
大剣と金属片が、つばぜり合いのように拮抗し、
「貴方は何か勘違いをされているが、幸せとは本人が決めるもの。それを嬉しいと呼んだなら、尊重するのが筋ではありませんか?」
「……その嬉しいを言わせるために、生に絶望するまで全てを奪ってもか!」
砂埃に埋まる
「生に絶望する、か。……当たり前のことを吼えるか、幻影!」
「……そう、生がそもそも無駄なものだ!同じ魂でも肉体を失えば、記憶は剥がれ思いもなかった事になる!輪廻など所詮
「主語をデカくするのも大概にしろ……!」
気押されるような声に、力強く
上下に刃を持つ両剣を構えると、
青い剣が振り下ろされるのと、赤い両剣が宙に舞ったのは、同時だった。
「……それで晴れるのは、お前一人の恐怖だけだ!」
赤い両剣の下の刃の一振りで、剣の形をしていた青い光が割れる。
「貫け、
両剣の上の刃が、
陶器のような音を立てて砕けていく
役目が終わったとばかりに、
「……終わった、ってことでいいんだよね?」
「おそらくな。残滓を吸い終われば、あとは雇い主がどうにかするだろう」
「出会いが最悪ってのもあるけど……そういう性格だったんだ。意外」
ようやく物陰から出てきたリーンが、髪を黒く戻したアガットに声をかける。明らかに口数が増えたアガットを茶化す程度には、リーンが調子を取り戻していた。赤い光源が消えた肌は相変わらず死体の色だが、表情があるおかげでアガットにはあまり威圧感がない。
「あんたの問題は解決したっぽいし……あとは私、か。結局これ、どうするの?」
リーンが左手首の白薔薇を見やる。その間に折れた大剣を掴んだアガットが、リーンの方に近づいていく。折れた大剣の先には、ほんのわずかに青い炎……
「え……大丈夫?あんたもこれに焼かれて、大変な目に合ったって話じゃなかった?」
「……
「なんか急に物知りになってるけど、昔から調べてたりしてたの?」
「どうも、さっき魂に余計なものが混じってな……便利と言えば便利だが、気持ちは悪いな」
余計なもの、の一言にリーンがやっぱり、という顔をする。合流してから一度も聞こえてこない金切り声は、なければないでアガットもリーンも多少は感傷的になるらしい。
しばらくして無言で
「さっきから何を考えている」
「ねえ……あんたはどうするの?便利なナビがいなくなったわけだけど。契約とやら、まだ続行中なんだっけ?」
「ゴーボンレークにまつわる契約は切れたが、もう一つは詳しい条件なんて示されていないからな。頻度か量か……機嫌を損ねれば、それまでだ」
アガットは、半ば諦めたように息を吐く。方針が全く決まってない事の指摘は相当痛かったらしく、動揺で軽く頭を振っていた。その様子を見て、リーンが不敵な笑みを浮かべる。
「……契約、増やす気ない?」
「お前自身のメリットに寄ると言ったら?」
「ちょっと、最初からないと決めつけるのは失礼でしょ。憐みじゃないのよね、これが」
憐みではないと言われて、アガットが支えていた剣を下ろす。剣がなくなった分、リーンが至近距離までアガットに歩み寄った。
「メリット?決まってるじゃない。悪くないと思ったからなんだけど」
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