掟から堕落する狂詩曲(ラプソディ)
地面に下ろされ、ようやく冷静になったリーンが周りを確認すると、あれほど人が多かった大通りには誰もいなかった。せいぜい夕方頃の時間のはずが、空は暗く全体的に青っぽい光源になっている。
「どうなってんの……」
『
すらすらと現状説明をするゴーボンレークに、リーンは全くついていけていない。内容を理解するかどうかは些細な問題らしく、男……
『まあこれで証明できたな。相手はお友達の姿でおびき寄せる程度には、明確にテメーを狙ってるんだよ。どっからあの女の情報が漏れたかなんて、今の人間様は陰湿でねちっこいから、いくらでもやりようあるんだろ?』
「わかった……事実ってことにしとく。後はアレ、本物じゃなきゃいいんだけど」
地面の焼き跡を見つめて、リーンが呟く。どうせどちらも慰めてくれる相手ではないからと、最悪のシナリオをなんとか自力で振り払ってリーンが前を向いた。
改めてリーンが様子を確認すると、周りの様子は依然として変わる気配はない。ゴーボンレークの言葉を思い出して、はっとしたようにリーンが口を開いた。
「……そういえば、今けしかけた奴がいるって言った?まだ他に――――――」
「動くな!!」
ガキィン!
リーンが声に反応するよりも前に、
「お見事です。さすが、不浄な手垢がついていると簡単にはいきませんか。浄化を受け入れれば肉体はいくらでも再生が叶いますから、私としては体がつぶれていても問題はないのですが……貴方はこの器を守るのですね」
メイスを手にした、ポニーテールの青年が言う。穏やかな笑みを崩さない分、言動と敵意がよりリーンの心をえぐる。低めで威厳のある声ではあるが、女性の声のようにも聞こえる声は、青年が
「
『……かなり大物が来たな』
「ははは、そうでしょうね。私は、
「
先に動いたのは、
戦闘は、僅かに
波打つ剣で大剣を挟んでその場で止まる
「しかし、誠に残念です。もう忘れてしまったのですか?」
「……何の話だ」
「貴方の事ですよ。復讐と称して我らに刃を向けた、哀れな幻影の話をしています。胸の傷、焼け
言葉と共に、クロスするように2回切りつけて
「……ぐっ…………!」
「かつて貴方を捉えたのも私、裁いたのも私、完全に滅ぼすために
体制が崩れたタイミングを狙い、
ギィン……!
「あっ……!」
鈍い音に、リーンが声を上げる。右手の逆手剣とハーフマスクで相殺したことで、
……実力差がありすぎる。それは、端から見ていたリーンも、戦っていた
「…………」
『
「……どちらのだ」
『なんだかんだで両方に決まってんだろうが!第2契約を破るのは第1契約を満たさなくなることに等しいんだよ!』
「奴に殺されれば第1契約を一番面倒な形で破るだろうな。お前の本体はそれを望むか?」
手の甲に刺さった棘を抜きながら、ゆらりと
「変化に10秒、奴の捕縛に10秒、退避に40秒……1分、奴と同レベルにまで引き上げる要請をする」
『……負荷をできる限り体に回す。後はテメーが耐えるかだ。
軽く肩を回しながら歩いてきた
「……面倒なことをしてくれたな」
紅き幻影を中心に、赤い光がガラスのひびのように広がり
背中から放射状に黒い棘が飛び出し、歪な翼が形成される。同じものが腕と足からも、服を貫いて生え始めた。腕と足の棘はだんだんと形を成し、巨大な爪を形成する。胸の逆さ十字から赤いひびが伸び始め、体中に模様を刻み込んでいた。
「――――――!!!!」
変身が終わった
「な、なにあれ……なんであんなことに」
この一連の流れの絶望感に、リーンがその場に座り込む。視界の先では、よろよろとこちらに向かってくる炎の魔物が見えた。頭こそ人の形ではあるが、体全体を燃やし、唸り声をあげる姿に
「……え、ちょっと、キャァっ!!」
燃え盛る巨大な手に捕まれ、リーンがもがく。幸い炎は見かけだけで燃やされることはなかったが、リーンは恐怖でパニック状態に陥っていた。手を握りこんで暴れるリーンを動けない状態にして、そのまま炎の魔物が跳躍し、翼を広げる。
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