「自分の価値」はすぐには見つからない。それでも!

 前作「白銀の狼」に続き、同じ人狼の女の子レティリエを主人公として語られる物語です。
 人狼とは人間と狼と、二つの姿を使い分けることで生きていて、彼らの村での価値観は主に「狩りや戦い」に於いての能力が重要視されます。


 そんな人狼でありながら、狼の姿を取ることが出来ないのがレティリエ。

 必然的に村では弱い立場に置かれていた彼女は、前作に於いてはしかし、他種族にも認められる美貌と、その機知と機転によって己の立場を得ていきます。
 しかし今作、「より強い群れをつくる」事を目的とした侵略者セヴェリオたちの手によって、彼女の立場は再び厳しいものに戻ってしまいます。

 優しく親しい仲間たちが追い出された村で、レティリエは立場を利用するために残されながらも、一方では邪魔者として排除されそうになります。戦う力の無い彼女と、一方的にそれを守らねばと必死の夫グレイルは追い詰められていきます。

 彼女にとって辛うじて得意分野であった筈の、美貌も機知も機転も、ここでは無意味。
 それでもグレイルを愛し、強く求める想いと、彼の足枷にしかならない自分に、レティリエは板挟みの状態になります。

 ですが、彼女に出来ることは本当にそれだけだったのでしょうか?


 周囲が当然のように出来ることが出来ない自分。それでも、どんなに他に得意な事があっても、共に生きる上では周囲とまるきり違う生活は送れません。

 私自身、周囲と同じように生きていく事、ただそれだけに多大な労力を要する生活を続けています。
 だからこそ、時に辛く悲しく思いながらも、出来ることを続けて来た私は、この物語でレティリエが示した彼女の新たな「自信」と「価値」に、大きく救われるような思いになりました。

 どんなに周囲と違っていようと、同じことが不可能な身であろうと、今まで確かに生活を共にしてきたのです。
 そのための努力も、費やした労力も、決して無駄にはなりません。
 それどころか、周囲が求める価値観、必要とされる力を、他とは違う形でも確実に育んでいます。

 それはすぐには見つからないし、探してもなかなか見いだせないものかも知れません。
 それでも、確かにそれはあるのです。


 自分を一番認めて欲しい夫グレイルからそれを認められ、自分の価値を見直し、レティリエは大きく前進します。
 彼女の強さは、不自由な身で周囲と共に生き続けてきた事、そこにあったと、はっきりと示してくれます。


 自分の価値が何処にも見つけられない。
 そもそもこんな世の中じゃ、自分を活かせる場所なんて無い。
 そんな風に思っている人に、ぜひ読んで欲しい物語です。

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