第38話 エピローグなようです

 あれから二ヶ月が過ぎようとしている。

 村での暮らしは快適そのもの。お風呂も作ったし、誰の目も気にすることなく湯船に浸かることができるってもんだ。

 大和をはじめとした友人たちがお風呂を借りにやってくるけどね。

 

 街から仕入れた魔道具はとても便利で、風呂だけじゃなくキッチン用のコンロまで設置することができた。

 電化製品とは使い勝手が異なるのだけど、慣れれば料理をするにもラクチンになったんだ。文明の利器バンザイと心の中で何度も叫んだのも今となっては懐かしい思い出である。

 火を起こすって結構大変だからさ。魔道具のスイッチを捻れば火が出る、その上何度でも使えるってのはすげえ以外の言葉が出てこなかった。

 

 乳製品も食べることができるようになったし、狩りも順調で肉の備蓄も万全だ。冷蔵庫なんてなくてもアイテムボックスで保管すれば、鮮度抜群だぜ。ははは。

 

 フライパンにバターを敷いて、魔道具の火をつける。

 豪快に分厚く切ったイノシシの肉を放り込み、塩をパラパラと。街にはコショウも売っているとロザリオが言っていたな。

 今度仕入れに行くとしよう。宰相らとの定時連絡会もあることだし。

 

 パチパチパチ。油の弾けるいい音が耳に届く。

 

「う、この臭い……肉ですね」

「香ばしいかおりだったのに」


 開け放たれた扉から入ってきたのはカルミアであった。

 外まで肉の焼けるかおりが漂っていたよな。

 それで彼女が顔を出したのかもしれない。


「わたしはどうしてもこの臭いに慣れません……」

「肉は食べないのだから、そうかもな」


 良いかおり……特に食べ物は自分が好きなものだといい匂いに感じ、苦手なものだとうわあとなるのかもしれん。

 納豆とかよい例だと思う。


「カルミアはもう食べた?」

「まだです。先にお風呂をお借りしようと思いまして。レンさんがちょうどお食事だと思い」

「まだ水を張っていないんだ。ちと待ってな。暖め方は分かるよな?」

「はい!」


 弱火にして風呂場に向かう。

 湯船に向けアイテムボックスにストックした水を入れ、これで水張り完了である。お手軽お手軽。蛇口を捻るより早い。

 後は、風呂釜代わりの魔道具で水を暖めるだけだ。

 

「暖まるまで少しかかるよ。チーズとかパンならあるけど、食べる?」

「ご一緒させてください!」


 森エルフのカルミアはとても食事量が少ない。人間の半分以下くらいしか食べないんだ。

 これで人間と同じように動けるのだから驚きである。族長の情報によると、どうやら森の精霊の力をカロリーにしているんじゃないかとのことだった。

 肉が必要ないのも、同じ理由かもしれない。

 

「いただきます」

「精霊に感謝を」


 両手を合わせた俺と両手を組み祈りを捧げるカルミア。

 食事前の仕草こそ違えど、食材に感謝する想いは同じである。

 しばらく無言でもしゃもしゃやっていると、先にカルミアの方から口を開く。

 

「レンさん、魔法使いの方々はずっと研究をされているのですか?」

「うん。俺と大和は異世界から呼ばれたってのは知っているよな」

「はい。お聞きしてます。神獣と意思疎通できるのも異世界の方だからなのですよね」

「どうやらそうらしい。それで、呼んだはいいが帰る術が無いときたものだから」

「帰る術を研究されているのですね」


 渋面になりつつコクリと頷きを返す。

 無責任にもほどがあるだろ。勝手に呼んでおいて戻る手段がありませんとか。

 呼びつけることを命じたのは宰相一派なのだけど、実際に術を構築し行使したのは宮廷魔法使いらだった。

 なので、宰相らとオハナシした結果、彼らが戻る手段を開発するまでここで暮らしてもらうことにしたのだ。

 研究が一番だけど、これ以上召喚の犠牲者を出さないためでもある。

 

 俺の表情に引っ張られてかカルミアもむううと難しい顔になってしまった。

 

「すまん、酷い顔をしていたか」

「いえ。レンさんはやっぱり帰っちゃうんですか……?」

「帰る手段によってはかなり迷うところだよ。カルミアたちに会えなくなっちゃうのも辛い」

「わたしもです! レンさんがいないと、わたし」


 食事の手を止め、目に涙をためるカルミアに何とも言えない気持ちになる。


「まずは帰還手段。次に行き来できるようにできないかまで研究してもらうつもりだ。どれくらいかかるのか分からないけどね」

「行き来? でしたら、わたしもレンさんの国に行くことができるのですか?」

「きっと。魔法使いたちに頑張ってもらわないとな」

「はい!」


 最初は無理やり連れてきたことで嫌がる素振りを見せていた宮廷魔法使いたちではあったが、今ではすっかり村の生活を気に入っている様子。

 衣食住が保証され、研究に没頭できる環境なのが良いとのこと。

 街だと食べていくにもお金が必要だし、研究ばかりやっていては生活が立ち行かなくなるのだって。

 言われてみればもっともだ。だけど、村ではそのような心配はない。食糧はガンガン供給されるし、たまに息抜きがてら狩猟へ出かける程度である。

 もっとも、大和とロザリオがイノシシとかをしょっちゅう狩って来てくれるから、彼らが狩猟に行かずとも肉の供給は間に合っているのだけどね。

 これもアイテムボックスの力が大きい。

 冷蔵庫も冷凍庫もない村だと、食糧はすぐに腐ってしまう。アイテムボックスがあれば、どれだけ備蓄しようが古くなろうが完全完璧にその時のまま保管できるからな。

 

「ごちそうさまでした」

「レンさん、そろそろお湯ができてます?」

「だな、俺は食器を洗っておくから、先にお風呂へどうぞ」

「いえいえ。すぐに入ってお邪魔しないようにと思っていたのですが、レンさんもお風呂のお時間じゃないですか。わたしが待ってます」

「気にしなくていいよ」

「じゃ、じゃあ。ご一緒しましょうよ!」


 カルミアに腕を引かれるが、湯船はそんなに広くないし……。

 ってそういうことじゃなくてだな。相手の羞恥心が俺と同じじゃないのに、ご一緒するのはちょっとばかし考えるんだよ。

 女の子と一緒にお風呂だーやったー、とはならないのだ。

 彼女にとっては同性と入るお風呂と同じ感覚といえば分かってもらえるだろうか。

 

 のっしのっし。

 そこへパンダが颯爽と現れ、俺の前で座り込む。

 

「洗車してやろうか? 今丁度風呂がわいたから」

『パンダは笹が食べたいようです』


 どんな時でもブレないパンダにくすりとくる。

 ほらよっと笹の葉をばらばら撒いてやると、すぐにパンダが笹を貪り喰らい始めた。


「神獣もご一緒に?」

「カルミアが洗ってくれるの?」

「はい。レンさんも神獣もわたしが綺麗にしますよ!」

「えっと……」


 どう答えたらいいものか悩んでいる俺に向けパンダが一言。

 

『パンダは笹が食べたいようです』


 いつの間にか笹の葉が全てパンダの腹の中に納まっていたようだった。


 おしまい


※ここまでお読みいただきありがとうございました!

ちょっとチート感が強いかなと思い、チート感の薄い島生活スローライフものを書いてみました。


タイトル

拝啓、無人島でスローライフはじめました

https://kakuyomu.jp/works/16816452220889798040


派手さは余りないですが、のんびり、おともだちができてからはコメディ色も強くなったりします。

ざまあ展開などはありません。

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無職だと売られて大森林。パンダに笹をやり最強の村ってやつを作るとしよう うみ @Umi12345

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