仲間からパーティを追い出された僕は、外れスキル「発光」を進化させ、全てを超える ~始まりの光《Evoluto The First》~

さぼてん

01 絶望との出会い

「話がある」

パーティーのリーダーであるベリルからそう言われ、僕――ハジメは、宿の寝室へと向かった。


「……」

ドアを開けると、そこには黙りこくって僕を睨むパーティーの皆がいた。

僕を含めて全部で四人。この世界を恐怖させる『魔王』を倒すため、集まった仲間たちだ。


「……どうしたの?」

この空気に耐え切れず、僕は尋ねた。だが、原因の察しはついている。


「しらばっくれるな。今日、お前のせいでフランが負傷した件についてだ」

予想通りの返答が、鎧の男――戦士のベリルの口から放たれた。

彼の横には、腕に包帯を巻きつけたローブ姿の女性――魔術師のフランがいる。


「あんたが『発光』なんか使ったせいで、フランが危険な目にあったのよ!」

軽装の女性――武闘家のリオが僕に怒鳴りつける。彼女は今まさに、僕に殴り掛からんとしていた。それも当然だろう。フランは戦闘中、僕を庇って負傷したのだから。

僕の心が罪悪感で締め付けられる。


「落ち着け。とにかく、今回のようなことはもう起きてほしくない……そこでだ」

そんな彼女を抑えつつ、ベリルは僕に衝撃的な言葉を投げかけた。




「今日限りで、お前にはこのパーティーを出て行ってもらう」


「……え?」

彼の口からそのような言葉が出てくるとは予想もしていなかった僕は、思わず聞き返す。


「言葉の通りだ。お前のせいでこれ以上仲間を危機にさらすわけにはいかない」

「……お前といると、俺たちが危ないんだ」

彼はいたって冷静に、そう言い放った。その目は僕をまっすぐに見据えている。

僕は幼いころから、彼の人となりを知っていた――だからこそ理解できた。

嘘ではない、と。


「……わかった」

僕は何も言い返すことなく、それを承諾した。

『発光』。ただ光るだけのこの『外れ』スキルしか使えないこの僕は、明らかにパーティーのお荷物だった。それでも幼馴染のよしみでなんとか踏みとどまれていた。

が、その結果が仲間の負傷。

僕としても、自分自身が許せなかった。

それ故に、追放は当然のことである――そう感じたのだ。


「皆。いままでごめん……そして、ありがとう」

僕はそれだけ言い残し、部屋を出た。


――僕はその夜、布団の中で涙を流した。

情けなさと、悔しさと、罪悪感と。いろんな負の感情が高まり、爆発したのだ。

そして翌朝、僕は一人故郷への旅路に就いたのだった。



あれから4日は経った頃。夜の森の中を『発光』で照らしながら、僕は進んでいた。

どこか不気味なほどの静寂に内心恐怖を感じながらも、その歩みは止まらない。ここを抜ければ、生まれ育ったあの村は目と鼻の先なのだから。

なぜこんなにも無性に帰りたくなるのかはわからない。

故郷が恋しくなっていたのだろうか――?そんなことを考えつつ、僕は進む。

そんな時だった。


「人……?」


少し遠く人影が見えたのは。

細く背の高い、笑みを浮かべた若い男だった。その顔には笑みを浮かべている。

村では見たことがない顔だった。旅人だろうか。僕は近くへ行き、声をかけてみることにした。


「どうも、旅の途中ですか?」

「まぁね。君こそ旅の人、かい?」

「いえ、もう故郷へ帰るところです」

「へぇ、また何でだい?」

「……まぁ、いろいろありまして」

一瞬言葉に詰まりながらも、僕は内容をぼかして返す。

「なら、私が当てて見せようじゃないか」

そんな僕に、彼はそう言った。

当てられっこない、と内心思っていた僕は次の瞬間、驚くことになる。

なぜなら――





「君は仲間に捨てられたんだろう?……ハジメ君」


「!」


僕が帰ろうとする理由、さらには僕の名前をぴたりと言い当ててしまったのだから。



「どうやら図星のようだねぇ」

にやにやと笑いながら僕の周囲を歩く男に、僕は警戒心を強める。

だが、何故だか足が動かない。


「いらないと言われたんだろう?ふふ、まぁ当然だろうねぇ」

僕の肩に手を回し、顔を覗き込みながら囁く彼に、震えが止まらない。

「悔しいだろう?悲しいだろう?信じていた仲間に、あんな仕打ちをされたんだ」

「っつ……」

「そこで私からの提案だ」

僕は唾をのみ、ただ彼の言葉を聞く。

彼はにやついたまま、次の言葉を発する。



「私が君に、力をあげようじゃないか……誰にも負けない闇の力を、ね」


その瞬間、男の姿は青と紫、白の稲妻に包まれて変化してゆく。

稲妻が収まってそこに立っていたのは、赤い目を光らせる、人型の『何か』――魔神とでも言うべきだろうか。

2本の角。銀の肌。コートのように足まで伸びた腰鎧。そして、笑いを浮かべたような口元。

異形と言って差し支えないそれは、僕の目の前へ移動し、言った。



「私の名はジャナーク。君を助けにやってきた、救いの使者さ」


彼がそう名乗った瞬間。どす黒い闇のオーラが放たれた。

それは僕の体をたちまちのうちに包み込んでゆく。

そして数秒もしないうちに、何の光も見えなくなってしまった――



「う……」


僕が次に目を覚ましたのは、真っ黒な空間だった。

辺りを見回しても、一面闇、闇、闇。けれど自分の存在だけが、いやにはっきりとしている。


「やぁ、お目覚めのようだね」

男の――ジャナークの声がどこからか響いた。見上げると、闇の中に顔のようなものが浮かんでいた。

「気分はどうだい?」

「ここはどこだ……なぜこんなことを!」

彼の言葉を無視して、僕は聞く。


「言ったじゃないか。私は、君を助けにやってきたと」

「嘘だ!」

「何故、そう言い切れるんだい?」

「お前は言った、『闇の力』って。それは、魔王とその眷属が持つ力……そんなものを使うお前の言うことなんか、信じられるか!」

「そんなもの、僕はいらない!」


「ハハ……ハハハハハ!!」

僕の言葉に、狂ったような笑い声が響き渡る。すると一呼吸置き、


「人間というのはいつだってそうだ……物事の一面しか見ようとはしない。光も闇も、結局は『ただの力』であることに変わりないというのに。闇を悪とし、敵意を向け。何の根拠もなく光こそ正義だと言い張る。そして自身と違うものをすぐ排そうとし自分たちだけの平和を望む――ああ、実に滑稽で、そして不愉快だ」

先ほどまでとはまるで違う低い声で、早口にまくしたてるジャナーク。


「お前、何を言ってるんだ!」

まるで意味の分からない言葉に叫ぶ僕。

「……君は力を求めているのだろう?なぜ拒むんだ」

しかしそれを無視し、彼は僕にそう尋ねてきた。

「言っただろう、闇の力なんてお断りだって」


「そうか……残念だよ。なら、私は潔く引き下がるとするよ……じゃあね」

一方的に答えると、顔のような影は消えてしまった。

「待て、どこへ行くつもりだ!」

一人闇の中に取り残された僕。声を荒げても、何一つとして返ってはこない。

しかし。


「あれは……?」

返答の代わりに、目の前に何かが映し出された。

何かが燃えているような光景。


「うわーっ!」

「助けてーっ!」


遅れて、人々の悲鳴が聞こえる。視点が変わると、そこには迫りくる、おびただしい数のモンスターが見えた。


「やめろっ!」

思わず僕は叫ぶ。だが、そんな声は届くはずもなく。


「ぐああーっ!」

爪に、牙に、炎に。人々の命は、いともたやすく奪われた。

息つく暇もなく、さらに視点が切り替わる。

そこに映ったものに、僕は驚愕した。なぜなら――


「姉さんっ!?」

そこには、僕の唯一の肉親の姿があったからだ。

彼女もまた、迫りくる魔の手から必死に逃げまどっていた。

焦る僕へ追い打ちをかけるように視点が地を見下ろすように移動する。そこに映っていたのは――炎に包まれた、故郷の姿。

そして――


「きゃあーっ!」

姉の悲鳴が響いたのを最後に、映像が消えた。


「嘘だ……嘘だあぁぁぁぁーーっ!」

僕は膝から崩れ落ち、叫んだ。何度も、何度も叫んだ。

だが僕の声は、深い闇に消えてゆくばかりだった――

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