05 邪悪の遊戯
数多の星が煌めく宇宙。
多忙な私にとって、貴重な安らぎのひと時だ。
しかし、そんな時間を邪魔しようとする無粋な輩が現れたようだ。
銀色の流星――とでも言うべきだろうか。大気圏を超えて昇ってきた訪問者。それは――
「おや、君は……そう、ハジメ君じゃないか」
あの時『進化』を遂げた少年だった。
なかなか、美しい姿に変わったじゃないか。
先ほど無粋と言ったが――あれは取り下げよう。私は拍手をもって彼を盛大に歓迎する。
「どうだい?手にした力の使い心地は。一つ上の次元に立った感想はいかがかな?」
「……」
テレパシーで伝えた私の質問に、彼は黙り込んだまま答えない。それどころか、戦闘態勢を取る始末。
「なるほど」私はここで察した。彼はどうやら、まだ本能で戦っているに過ぎないらしい。
それもそうか。あの状況下から脱するため、怒りに任せて無意識に力を解放したのだから。
このまま力に飲まれて破滅してゆく姿を見届けるのも面白くはあったが、それではせっかく『進化』に至った初のケースを失うことになる。
貴重なサンプルだ。彼には一度、眠ってもらう――ついでに、少し遊んでみるとしようか。
「おいで、坊や」
私はくい、と指を動かし、彼を挑発する。彼はまんまとそれに乗り、考えなしに突っ込んできた。
これではまるで野生の獣――せっかくの美しい姿が台無しじゃないか。
ため息をつきながらも、軽く身を反らして繰り出された拳を避ける。
「フフっ、そら」
躱したままの勢いで回り込むと、軽くその背を押してやる。
少し前方に移動しながら彼は振り向いて私を睨むと、素早く肘打ちを繰り出した。
「残念」
が、そんな攻撃が当たるはずもない。前方に移動し、逆に肘を顔面に打ち込んでやった。
ウウ、と短いうめき声が漏れ、よろめく。
「ほらほら、しっかり狙いなよ」
自分の胸元を軽く指で叩きながら言う。
すると彼の体は赤く光り輝き、姿を変えた。
筋肉質になり、一回り体躯が大きくなったその姿。いかにも『力』の戦士といった具合だ。
彼はその剛腕を振るい、私を殴りつけんとする。
躱すことは造作なかったが、ここはあえて受けてみた。
「むっ……」
なるほど、見掛け倒しではないらしい。意外なほどの腕力に、私の身体は少し後方へと押される。
それに調子付いたのか、2度目の攻撃を繰り出す彼。
が、2度も受けてやるほど私は甘くない。指を鳴らして空間移動を行い、距離を置く。
「こっちだ」
そう言って手のひらに光球を作り出し、投げつける。少し曲がった軌道を描くそれは、彼のたくましい背中へと直撃、爆煙を上げる。
瞬間、振り向いた彼の全身が再び輝いた。今度は、青き光。
さて、どう来るのか――内心楽しみに観察していると。
「消えた」
私の視界から、彼の姿が消え去った。超スピードか、それとも透明化の類か――
考えているうち、私の背後から気配がした。
「おっと」
少し身をかがめると、鋭い手刀が頭上を通り過ぎた。
「おや危ない」
直後、再び背後に気配を感じる。空間移動で回避すると、蹴りを繰り出す彼の姿が見えた。
そして距離を離したと思ったのもつかの間、驚くべき速さで迫りくる。
どうやら、前者だったらしい。紫を基調としたカラーリングの『速』き戦士は、青き残像を伴って私へと矢継ぎ早の攻撃を仕掛け続ける。
しかし、タネさえ分かってしまえば容易いもの。私は攻撃を何度かいなし、彼の首を捉え、動きを封じる。
「フッ……」
もがく彼を鼻で笑いつつ、その腹に掌底を一撃、お見舞いする。
大きくよろめいて後退し、腹部を抑える彼――機動力と引き換えに、防御力は下がっているようだ。
「さぁて、そろそろお開きとしよう」
私はそう言って少し距離をとり、両手に稲妻を迸らせ、突き出す。白と青の稲妻は一つとなり、巨大な光線となって彼に襲い掛かる。
彼もまた最初に見た姿に戻り、光線を放つ――が、悲しいかな。力の差は歴然。
押し返す素振りすら見せずに、彼の放った一撃は掻き消えた。
そうして稲妻をもろに喰らった彼は、惑星目掛けて落下してゆく。
その様は、まさしく『流星』のようだった。
それを見届けると、私は手品師のごときお辞儀をし、
「では、良き眠りを……そして良き旅路を」
そんな言葉を、彼へと投げかけた――
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