04 初陣
彼女は今、自分の目の前で起こっていることが、現実とはとても思えなかった。
絶体絶命の危機に瀕していたその前に、光を纏いし何かが舞い降りた。
それはまさしく――
力強くも暖かさを感じる視線を受け、彼女の口は思考よりも先に言葉を紡いでいた。
ありがとう、と。
「テャッ!」
雄々しく叫びをあげた。オークの体がみるみるうちに持ち上げられ、背中から地面へと叩きつけられた。
「アグッ!!」
何とか受け身を取ったオークだったが、地面をえぐるその威力にうめき声を漏らす。
よろめきながらすぐに立ち上がる彼を前に、ハジメは構える。
腰を低く落とし、背中を丸く曲げ、両手は手刀の形に。じっと敵を見据え、出方をうかがう。
「ヨクモジャマシタナ、チビガ!」
激昂とともにその丸太の如く太き腕を振るい、大鬼が彼を狙う。
「!?」
だが、そんなものは何の意味もなさなかった。あっさりと拳を受け止められるオーク。
狼狽する彼をよそに、今度はハジメの番がやってきた。
身体の赤い部分が輝いたかと思うと、一気に全身が同じ色に染まる。
「カワッタ!?」
全身の筋肉量が増した真紅の戦士の姿を見て、さらにうろたえる大鬼。
「ハアァ……!」
拳を受け止めたまま気合を込め、ハジメは自身を中心として回転し始める。
2度、3度と回るうちに、オークの足は地面を離れた。
「デェア!」
そして間もなく、その巨体は宙を舞った。激しいきりもみを伴いつつ飛んで行くその姿は、みるみるうちに小さくなってゆく。
が。それだけでは終わらない。ハジメは腕を交差させ、その体を再び輝かせる。
今度は紫色の光が全身を包むと――
「ショアッ!」
掛け声とともに、それは飛び立った。
先ほどまでとは対照的に、筋肉量の減ったシルエット。紫電の勇者が、空を行く。
5秒も経たぬうちにいまだ飛び続けるオークとすれ違い、
「セアッ!」
加速と全体重を乗せた蹴りを見舞った。
「グゲェ!」
再び大地に叩きつけられる大鬼。その口からは苦悶の声があふれ出る。
「ク、クソ……ナゼダ!?ナゼアンナチビニ!」
信じられない、といった様子で怒りをあらわにする大鬼の姿をよそに、またもハジメは姿を変える。
今度は、最初に見せたあの姿だ。彼は眼下のオークを見下ろしたのち、
「チャッ!」
手のひらを手刀の形にし、両の腕を胸の前で交差させ力を込める。全身が白く光り輝くと、
「ハァァ……!」
右腕を高く突き上げ、左手を腰の位置に持ってゆくと、さらに力を集中。右腕にエネルギーを収束させ――
「セェヤァ――ッ!」
雄叫びとともに、解き放った。
胸の前で横向きに構えた右腕から、直線状に光の奔流が打ち出される。
それは瞬く間にオークへと直撃。そして――
「ギッ……ウグアァァ――ッ!」
数秒に渡る照射ののち、オークの断末魔の叫びが響く。大爆発を起こし、夜空が明るく照らされた。
それを見届けると、戦士は星空へ向かって飛び去ってゆく。
その姿は、天へと昇る一筋の流星のようだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます