03 進化の瞬間《とき》

「……ハッ!?」


飛び跳ねるように、僕は目を覚ました。どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。

ただ出迎えるのは朝の光でも、月の光でもなく真っ黒な闇――ジャナークという男に送られた、あの空間だった。


「夢……か」

何故、あのころの思い出を今になって夢に見たのだろう。あれから、どのくらいの時間がたったのだろう。僕が考えていると――


「お目覚めのようだねぇ、ハジメ君」

人を馬鹿にしたような笑いを含んだ声が響き渡った。あいつだ。

「ジャナーク!」

僕は怒りをむき出しにして、その名を叫んだ。

「おお、怖いねぇ……そうだ、一眠りして考えは変わったのかい?」

「変わるはずないだろ!」

「へぇ、そうなのか……じゃあ」

指を鳴らす音が聞こえると、また、あの時と同じように何かが眼前に浮かび上がる。

今度は、鎧を着た少女がモンスターに追われる光景。

「まさか……!!」

僕の脳裏に、いやな予感がよぎる。

「村の人たちも、お前が……!?」

「正解。君が私を拒むものだからねぇ、ふふふ」

拍手の音が響き渡る。

「お前……っ!」

「何、簡単なことさ。選択は二つに一つ。君が受け入れるか否かだよ」

ジャナークが言うと、映し出されている少女とモンスターの動きが止まった。

「それは……嫌だ!」

「じゃあ仕方ないねぇ。あの子を見殺しにするがいいさ……君のお姉さんと同じように、ね」

「!」

その言葉と同時に、止まっていた時が再び動き出した――



さて、ここまでは計算内。彼が私を受け入れないのはまぁ最初から分かっていたこと。

本題はここからだ――さて、どう出る?ハジメ君。


「グフフフ……」

緑の大鬼は、わざとらしくゆっくりと歩き、傷ついた少女を追い立てている。

恐怖を煽ることで、快楽を満たしているのだろうね。全く、顔に違わぬ下品な行いだよ。

「きゃっ!」

おやおや、かわいそうに。転んでしまったのか。すぐに立ち上がろうとするけれど、時間切れのようだ。

「い、嫌……!」

巨大な影が、少女を覆う。大鬼は少女を片手に握ると、力を込め、締め上げる。

「痛い……痛いっ……」

一気に握りつぶさないところを見るに、じわじわといたぶろうとしているらしい。

随分趣味の悪いことだ。吐き気がするね。

「グフフゥ」

「ああぁーーーーーっ!」

ああ。今の音、どこかの骨が折れたか。さぁて、彼の方は――


「やめろ……っ」

少女の悲鳴を聞き、怒りに打ち震えているようだった。

無意識のうちに彼は「発光」を使っている。

やはり、彼の本能はあの力の真の使い方をわかっている――ただ、自覚がないだけだ。

彼はもう、『進化』の段階へと至っている。

いいぞ、もう一押しだ。さぁ、『もう一度』私に見せてくれたまえ。

10年前君が得た、あの力を。


「やめろーーっ!」

彼が大きく叫ぶと同時に、その体は眩い光に包まれた。

同時に、私が作り出した空間がひび割れ、消えてゆく。

私は歓喜した。待ち望んでいた瞬間が、ついに来たのだから。

見ているか、『神』を名乗る者どもよ!

お前たちがかつて恐れた事態が、ついに起こったぞ!

さぁ、存分に振るうがいい!神をも超えうる、その力を!



「あ……う……」

何度も何度もじわじわと締め上げられ、少女はもはや悲鳴を上げることすらできなくなっていた。

すでに体中のあらゆる骨を折られてしまっている。意識もほとんどないと言っていい。


「ナンダ、コワレタノカ……」

大鬼はがっかりしたように言う。

意気揚々と自身へ歯向かってきたというのに、獲物を無くしたとたんにこのザマだ――そんな風に彼女を嘲りながら、彼女を地面に放る。

「うっ……」

受け身すら取れずに地面へと投げだされたその体は2度、3度転がり、力なく止まる。

大鬼は息も絶え絶えにもがく彼女のもとへと近づいて、

「ジャア、モウイラナイ」

まるでゴミを処理するかのように、大きな足を振り下ろした。

少女はなすすべもなく踏みつぶされ、短い生涯を悲惨に終えた――



かに、思われた。


「ナンダ、オマエ……!?」

大鬼は目を大きく見開いて、焦りに焦っていた。足を振り下ろすまでのほんの一瞬の時間に、何者かが割って入り、自身の足を片手で受け止め、金色の瞳でこちらを見据えているのだから。

ごつごつとした頭部ではあるが、兜というわけではなく。

銀色をメインとし、赤と黒、紫の入り混じった体色と、胸や手足に走る金のライン。

胸の中央で燦然と青く輝く発光体を持つそれは、ハジメが『進化』した姿だった。



その名は、『超進化生命体エヴォリュート』。

永きに渡る戦いの幕が、今ここに上がった――

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