10 漆黒の襲撃者
カツン、カツン――薄暗い洞穴に、足音が響く。その主は、黒衣を身にまとった一人の男。
「ここか……」
洞穴の奥にたどり着いた彼は呟く。その目線の先には、燭台に囲まれた祠があった。
彼は祠を興味深げに観察すると、あるものを懐より取り出す。
中心が割れた輪のような先端部を持つ、短い杖だった。彼がそれを祠にかざした――その時。
「そこで何をしている!」
男の背後より、怒声が放たれた。男が杖をしまい振り向くと、そこには――
「その祠は我ら竜人族の守り神を祀るためのもの!人間ごときが触れて良いものではない!」
雄々しき2対の角を持つ男が――竜人族の兵士が槍を手に立っていた。
「よぉ、番人様。お勤めご苦労さん♪俺に何か用でも?」
黒衣の男は兵士を見つつ、バカにするような口調でそう尋ねる。
「出て行け!ここは貴様の居て良い場所ではない!出て行かぬなら……」
兵士が槍を構え、言い放つ。
「おいおい、丸腰の相手に武器を向けるとはねぇ」
男は両手を上げ、ゆっくりと歩みを進める。そしてその眼前に立つと――
ガキン!金属同士のぶつかり合う音が響き渡った。
「今の不意打ちに反応できるか、やるねぇ♪」
「邪気をむき出しの男が何を言っている?」
黒衣の男の手には、黒い輝きを放つ片刃の剣が握られていた。彼はどこからともなくそれを取り出し奇襲を仕掛けたが、結果は先の通り。槍の柄で阻まれ、失敗に終わった。
「来いよ」
男は2、3歩下がると、手をくい、と動かし兵士を挑発する。
しかし兵士はそれに乗らず、じっと男を睨み続ける。
暫しの静寂が訪れ、そして。
「せやっ!」
黒衣の男が打って出た。大きく剣を振り下ろし、兵士を狙う。
それを右へ跳んで躱す兵士。槍を突き出して反撃に出る。
「なっ……!?」
だが男は左腕を上げて軽く上体を捻ることで危なげもなく回避。槍が引かれるその前に距離を詰め、槍を持つ右腕に自身の左腕を絡めて動きを封じる。
そしてわざとらしく剣を見せびらかし――その胸に刃を突き立てた。
がは、と血を吐く兵士。
剣を引き抜くと、男は力なく倒れた彼に見向きもせずに祠へと向かってゆく。
「うう、う……」
霞む視界の中、兵士は必死に男に向かって手を伸ばす。が、その歩みを止めることはもう、できない。
「ルー、ジュ……」
そして間もなく、彼は事切れた。最愛の娘の名を口にして――
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