13 猛然たるマグニス

(何だ、こいつは)

突如現れた新たな敵にうろたえつつも、急いで体勢を整えなおすジェネス。

そんな彼に対し当の敵――マグニスは悠然と歩みを進める。狙いは当然、彼だ。


「チャッ!テァッ!」

『ハンディシュート』を数発放ち、牽制に打って出るジェネス。一つ、また一つと小さな爆発が鎧の上で起こるが、傷一つ付けられず。全く意に介さない様子で歩みを続ける。


「ハァア……ッ!」

なら、これはどうだと構えを取ってエネルギーを集中し、

「デアァーーッ!」

解放。

右腕の先から、光の奔流が迸る――オークやサイクロプスを屠った必殺の光線――『エヴォリウムシュート』だ。

真っ直ぐに放たれたそれは、マグニスの胴体へ直撃。同時に生じた爆発が辺りを覆う。

思わず、リリンが叫んだ。「やったか!?」。


「ッ……!」

しかし、現実は実に無情。爆風が晴れた先にいたのは、全く変わらぬ姿のマグニス。

渾身の力を込めて放ったこの技すら、ダメージを与えることすら敵わなかった。

精神的ショックがハジメを襲う。

だが、彼は退かない。いや、退くという選択肢自体がそもそもない。

転移魔法を使ったばかりで、すぐに離脱できないリリン。ボマードに襲われ、怪我をしているやもしれない竜人族の少女。

今ここで自分が逃げ出せば、彼女らはどうなる?

いや、彼女らだけではない。

きっと奴を放っておけば、いずれ世界そのものが危機に陥ってしまうだろう――ベリルが守った、この世界が。

だからこそ、退くわけにはいかないのだ。再び構えを取り、彼は眼前に立つ敵へ対峙する。


何かを量ろうとしているのか?ジェネスの前に立ったきり、微塵も動こうとしなくなった。

「デアッ、タアァッ!」

それにあえて乗り、矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。そのすべては鎧に吸収され、ダメージを与えるに至らない。

「デエェアア――ッ!」

だが、それでも止まるわけにはいかない。幾度かの攻撃の後に放った拳の一撃が炸裂したその時――事態が動いた。


「グオッ……!」

これが攻撃というものだ、と言わんばかりに、巨大な拳がジェネスの顔面を打ち付ける。

「ガッ!」

続いて、一瞬のよろめきの後すぐさま反撃に転じようとした彼の腹部に、またも拳が突き刺さる。

大きく吹き飛ばされ、何度か岩を砕き貫いたのち岩盤に叩きつけられるジェネス。腹を抑えながらなんとか立ち上がるも、

「グアッ……!」

巨大な掌が、その視界を覆う。頭部を鷲掴みにされて、為す術もなく持ち上げられる。いくら身をよじっても、いくらその腕を殴りつけようとも、拘束が解かれることはない。

そして、次の瞬間。


「アアアアアア――――ッ!」


目を覆いたくなるほどの絶叫が、火山灰降る空に響き渡った。

全身を赤々とした炎に包まれ、苦しみもがくジェネス。


「ウアッ……アアッ……あっ……がっ……!」

火だるまのまま無造作に地面に放り捨てられ、その姿はハジメのものに戻る。

(ま、て……っ)

全身を焼かれる熱と痛みに襲われながら、背を向けて歩き始めていた敵へと必死に手を伸ばす。

ほとんど動かない身体を、地面の凹凸を掴むことで無理やり前へ前へと進めてゆく。

乱れ、ぼやけ、霞んでゆく視界の中、ただただ敵の姿を見据え続ける。

しかし、その手が届くことはついぞなかった。

限界を迎え、彼の意識は暗闇の底へと落ちてしまった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る