14 竜人族の村にて

「まったく、よそ者、それも人間を村に入れるとはな」

「見捨てればよかったものを」

 

道行く村人の陰口を聞かないように、オレは足を少し早め、家へと急ぐ。

ドアを開けると、そこには。

 

「おお、ルージュ殿」

オレの名前を呼ぶエルフの女と、まるでミイラのような状態でソファーに横たわる人間の男が一人。

こいつらこそ、陰口の原因。とはいえ、自分が連れてきてしまったのだから、誰にも当たることはできないのだが。

 

「その……すまぬな。わしらのせいで。お主も、急に父親を失ってしもうて混乱しておるだろうに」

別に、と返しつつ、買ってきた薬を女の胸元へ半ば押し付けるように渡す。

あの怪物と、『守り神様』に襲われたのを助けようとしてくれたのは事実だ。

いくらなんでも、目の前で火だるまにされた奴を見捨てるというのは、あまりにも寝覚めが悪い。それだけだ。

例え、そいつが人間であっても。魔王が倒されたのち、オレたち亜人族を排斥し始めた――そしてオレの大事な父さんを殺した――人間であっても、だ。

 

「で、様子はどうなんだ」

「それがな……」

「勿体ぶるなよ」

「……信じられん速度で回復しつつある。普通ならば、即死していてもおかしくないというのに」

「……へっ、まるでバケモノだな」

そこまで言って、オレはハッとなって咳払いをし、誤魔化す。流石に言い過ぎた。

 

「ま、まぁ、何だ。治ったらさっさと出て行ってもらうからな」

「うむ、そうするつもりじゃ。人間がこの村にいるのは、どうやらマズいようだからの」

「ああ、そうしてくれ。じゃあオレ、ちょっと寝るから……」

言いながら、オレは寝室へと向かう。最中、チラリと男のほうを見る。

包帯だらけの痛々しい姿だったが、すぅすぅ、と落ち着いた息の音が漏れている。

それを見て、オレはわけもなくほっとした気分になった――

 

 

「全く、ルージュの奴は何を考えているのだ!」

円卓を囲む、3人の老人たち。いずれも、頭部に大小の違いこそあれど、2対の角を持っていた。

その中の一人、白髭を生やした男の竜人は怒声とともに机を叩く。

 

「落ち着け、お主もあの怪我を見ただろう。何もできまいて」

「だとしても、人間をこの村に入れたことが気に食わぬのだ!」

「それより今は、『守り神様』のことを議論するべきではないかしら?」

立ち上がって興奮する男を、残りの二人がすかしなだめる。男はチィ、と舌打ちを交えつつもそれに従い、席に座りなおす。

 

「ルージュの話が本当なら、『守り神様』が姿を現し、我々を攻撃したということらしいが」

「にわかには信じがたいですね……ですが」

「うむ。先日の祠襲撃事件のこともある。あながち嘘だとも言い切れぬだろうな」

3人が議論を繰り広げていた、その時。

 

「随分、盛り上がっているようだねぇ……皆さん?」

突如として、聞きなれない男の声が聞こえた。三人は一斉にその方向を見やる。

そこには、足を組んで座る、細身の若い男がいた。彼は不気味な笑みを浮かべながら、三人を見つめている。

 

「何奴!」

「貴様、人間か!?」

白髭の男が立ち上がり、剣を抜き放って切っ先を向ける。

若い男はその笑みを崩さぬまま両手をゆっくりと上げ、手のひらを開く。

「待って……この気配、人間じゃないわ。けれど亜人族にも見えない……貴方はいったい?」

女の竜人が剣を収めさせつつ、投げかける。

 

「私のことを詮索している余裕が果たしてあるのかな?……まぁ、人間でないというのは事実だけれども、ね」

「名前だけは教えておこうかな……私の名はジャナーク。以後、お見知りおきを?」

彼は椅子から立ち上がると、丁寧なお辞儀をしつつ、そう言い放つ。

 

「それで?いったい何の用かしら」

「君たちにいい知らせがあってねぇ。聞きたいかい?」

彼はどこからともなく4つの玉を取り出し、お手玉を始めつつ問う。

「貴様、ふざけているのか!」

「おおっと、これは失礼?」

 

「……その知らせとは、いったい?」

「なぁに、君たちの『守り神様』だっけ?あれを操っている者についてさ」

「何か知っているのか!?」

「ああ、もちろん……」

「かつての人間族の英雄……5年前、魔王を倒した勇者」

 

 

 






「その名はベリル」

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