妹:2月(2)
「き……君……が……相談役の秘書かね? な……何をしたっ?」
薄くなりつつある髪を振り乱した社長が……私の前にやって来て……そう質問した。
会社のビルのあちこちの窓が割れ、そこから黒いガスのようなモノが吹き出し続けていた。
異変に気付いて逃げようとした人達の中には……割れた窓ガラスが上から落ちて来たせいで大怪我を負った人も居るらしく……救急車やパトカーが山程来ていた。
と言っても、駆け付けた警官達も、何が起きているのか判らぬまま、呆然としていたが……。
周囲には……哀しげな嗚咽が……いや、「哀しげな嗚咽」なのに、こう表現するのは変な気もするが……轟いていた。
ビルの中に居た人間は……何とか逃げ出す事が出来た……ように見えるが……ひょっとしたら、逃げ遅れた者も居るかも知れない。
逃げ遅れた人がどうなるかは……全くもって想像も付かないが……。
「相談役に教えてあげたんですよ……。『あなたは十数年前のホワイトデーに、政治スキャンダルの責任を負わされて自殺した。貴方は死人だ』って事を」
「な……な……な……な……」
「何故、そんな事をした? 何故知ってる? って
社長は、口をパクパクさせながら、首を縦に振り続けた。
「ああ、あの相談役の秘書だった私の姉も、貴方達が人身御供にしたんじゃないんですか……? あの怨霊を鎮める為のね……。姉の死因は『急性心不全』でしたが……調べてみたら『死因は不明』の場合に死亡診断書に『急性心不全』って書かれる事は良く有るみたいですね」
「ああああ……姉ぇッ?」
「何故か……相談役の秘書は……毎年3月で居なくなり、新しい人が4月に就任。全員を調べきれた訳じゃないですが……私が調べ上げる事に成功した7人は、みな……顔立ちや髪型が私や姉に似ていて……ホワイトデーに『心不全』で死んでる」
「お……おい……人事部長……な……なんで……」
「え……えっと……」
「な……なんで……以前の秘書の関係者を……新しい秘書にするなんて……あ……あまりに……う……迂闊な……」
「だ……だ……だ……だって……その……」
「気付かなかったみたいですね。私と姉は……子供の頃に両親が離婚したせいで、顔は似てるけど、名字が違うんですよ」
あの「相談役」は……十数年前、労働者派遣法改正を巡り、この「業界」に有利な「改正」になるように政治家に働きかけた……もちろん政治資金規制法その他に引っ掛かるような「働き掛け」だ……と云うスキャンダルの責任を一人で負う羽目になり……ホワイトデーの日に、会社の自室で愛用の万年筆で喉を突いて自殺した。
そして、あくまで都市伝説だが……息絶えるまで時間がかかり……あまりに無茶苦茶な「遺言」を……第一発見者である自分の女性秘書に「愛の告白」と「プロポーズ」をやった、と云う話まで有った。
姉が死んでから……ずっと、この会社と「相談役」について調べ続け……「相談役」が既に死んでいる事は早い内に判った。
WikiPediaの変更履歴に有った「相談役の自殺」と「相談役が死の直前に巻き込まれた政治スキャンダル」の記述を執拗に消し続けたIPアドレス……それが、この会社のものである事も……。
では……姉の上司だった「相談役」とは何者なのか?……誰かが何かの理由で「死んだ相談役」を演じ続けているのか? それとも「怨霊」のような超自然の存在なのか?
最後まで確証は得られなかったが……どうやら、後者だったようだ。
さて……姉の
そんな呑気な感想を抱いてるどころでは無い事態を引き起こしてしまった気もするが……。
相談役秘書 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます