悲劇の予感

(7-6まで)
史実および歴史の解釈にまで踏み込み緻密に辻褄が合わされている。北畠顕家が主人公の小説は北方健三「破軍の星」しか読んだことがないが、本作を読み進めると北方太平記シリーズがかなりのエンタメよりだったという印象に変わる。


“陵王の面だった。”(1-1)

もとより北畠顕家は悲劇的最後を遂げた人物として名を残す。しかし本作では、物語の開始早々に悲劇的終劇への印象が刷り込まれる。

(稜王の面、北斉の蘭陵王がモデルの伎楽面。蘭陵王は、眉目秀麗、戦神、兄王による賜死、続く北斉の滅亡への逸話を持つ人物。梅原猛「隠された十字架」では聖徳太子の臨終に重ねて考察される)

大塔宮の死、楠木正成の死、北畠顕家の死。なぜ、この歴史は悲劇に向かわねばならなかったのか。

作者は、建武の新政を成し遂げた後の後醍醐帝の狂気を掘り起こす。なぜ、後醍醐帝は狂気に囚われるのか。後醍醐帝に目や耳が無かったわけではない。五辻宮を通して後醍醐帝は建武の新政が失敗だったとの認識に至る。あとは不出来な作品を叩き壊す作陶家のような心理か。

ならば、なぜ、正成、顕家、彼らは自滅の道をたどるのか。ここに未来人建速勇人をタイムスリップさせた意義がある。自らの死の予告。太平記の用語でいえば「未来記」に相当する。

しかし、彼らは道は変えない。なぜ。予想はしているが、これからのお楽しみ。


(南部師行。一族名南部のルーツとして八戸に名を遺す。南部煎餅の表面には例外なく菊水の旗印が彫り込まれている)





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