想像することで地球は回る。世界を明るく温かいものと想像する素晴らしさ。

人生の残酷さに打ち拉がれたある女性が、一本のペンを手に入れる。
そのペンは、書き記したことが現実になる不思議な力を持つペンだった——。
物語に中に存在する複数の世界のうちの一つは、この女性が生きる薄暗い現実が充満した世界です。
もう一つの世界は、ファンタジックで不思議な世界。ひっそりとたたずむ洞窟の奥にある泉と、古い鏡。闇深く神秘的なその場所で、ある世界の子供達ともう一つの世界の子供たちが出会います。彼らは少しずつ友情を交わし、笑い合い、やがて自分たちが大切な任務を遂行しなければならないことに気づき始めます。「世界を救う」ために。
不思議なペンを執る女性と、現実の苦しさや理不尽さに真っ向から向き合う子供たち。物語を構成する複数の世界が違和感なく絡み合い、一つの壮大な物語を形作っていきます。この女性は何者なのか。そして、子供達とどのような関係にあるのか。読み進めるに従い、謎めいたストーリーが少しずつ紐解かれていきます。

「想像することで地球は回る」。これは、本作に込められた大きなテーマです。知力と体力、精神力を限界まで使い、世界を救うためにピンチに立ち向かっていく子供達。その任務を成し遂げた先に、彼らは世界を見守る「創造主」に出会います。創造主の姿は優しく、美しく、大きな温かさに満ちています。その気配は、私たちの現実を支配する残酷な神とは違う……ふと、そんなことを感じました。もしかしたら、ここに描かれた「創造主」は、作者自身が思い描く「優しい神」の姿なのではないかと。
諦めたように人生を眺めるのではなく、世界を明るく温かいものと想像することの素晴らしさを、目の前にはっきりと示されたような思いがします。
現実は理不尽で、苦しみの連続に思えます。けれど、どうせ残酷な運命に支配されているのだからと項垂れていて、何かが変わるのか。現実に振り回され、追い詰められ、項垂れている私たちは、想像する力を決して失ってはいけないのだと深く頷かされます。明るいものを想像し、リアルに思い描き、それを現実にしたいという強い願いを抱かなければ、望む未来は決して訪れない。先が見えなくて、危うくて、どうなるかわからなくても、踏み出さなければ何も始まらない。この物語は、そんな大切なことをはっと気づかせてくれます。

世の中は残酷で、冷ややかで。どれだけ努力したって、どうせ無駄。最初からそう俯いている子供が、今の社会にはとても多い気がするのです。そうではなく、顔を上げること。明るいことや楽しいことをイメージし、リアルに思い描くこと。そして、思い描いた輝くものへ向けて、足を踏み出すことの大切さ。そんな、これからを生きる子供たちにまっすぐに伝えたいメッセージがぎゅっと詰まった、高いファンタジー性とリアルな力強さを併せ持つ素晴らしい物語です。

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