ドクハク

作者 陽澄すずめ

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★★★ Excellent!!!

念入りに小綺麗に整えられることなく、胸の奥から吐き出される感情と言葉たちを勢いのまま撒き散らすかのようで、それでいて一首一首にしっかりと一つの感情を描き切り、着地をしっかりと決めている二十首。迸る熱量と、それをコントロールする冷静で的確な感性。そのバランスが見事だと感じます。読み終えて、タイトルの巧さにも思わず唸りました。
あれこれと感想を述べるよりも、まずは味わってみてほしい。ストレートにそう感じる、鮮烈で深い余韻を残す二十首です。

Good!

夜月揺れ卵の影にむせびなくそんな私は今研ぐセンス愛調べ
包丁の先に飛び散る肉塊は切り刻んだら思い出が母の指
まな板に告白して白い血が流れる死んだ魚の目は
川が行く滔々と流れる下水道に同じ影を見る早春のイトミミズ
ライターで自分の髪を焼いてみる夢うつつにぼやける顔はゆがみのほお骨
煙草に火を点けて待っている恋人は髪を結うポニーテールの笑顔花
下着がね金がないなら洗えないそんな自由は楽しい紙芝居囚われない心傷景色
ブラックストーンメダルはマリアで恋メダイ死んでいく面影は指きりの黒い薔薇
散っていく最後の恋は始まったその先にある黒蜥蜴尻尾を切った余韻の音
愛してる言葉にすれば泣けてくる恋する女は情事の枯れ涙

★★★ Excellent!!!

 今までの人生で、自分を責めたり、悔いたりしなかった人はどれくらいいるのだろう。自分の嫌な感情を、本当の意味で視界に入れなかったり、抱かなかったりできる人は、一体どれくらいいるのだろう。
 誰もが自己嫌悪を抱くときがあるだろう。しかしそれが案外、後になって人生の一部だと気付く。今の自分を作っているのは、どんな感情だろうか。簡単に、自分の嫌な部分を放り込めるボックスがあればいい。しかし、そうしてしまったら、自分の一部だったそれは、もう二度と見られないのかもしれない。

 最後の文章に、生への強い意志が滲む一作。

 是非、御一読下さい。