異世界の村落を髣髴とさせる泉の世界と、現代の日本を舞台にした鏡の世界。
それぞれよく似た名前を持つ13歳の少年少女たちが、泉と鏡(この2つの世界をつなぐ扉のようなもの)を通じて不思議で神秘的な交流を始め、自分たちに託された世界を救う使命を理解し果敢に挑む冒険譚。
壮大なファンタジーにも見えますが、魔法もドラゴンも登場しません。
しかし、この物語には、書き記したことが現実になる不思議な力を持つペンを持ち、世界を創造した、創造主の視点も登場し、少年少女たちに託した想いが刻まれます。
そんな、複数の視点、世界が巧妙に交錯し、謎が解決に向かい一点に収束していくような展開は圧巻です。
そして、この物語には、作者様の強いメッセージ性が込められているのです。
それは、誰しもが子どもの頃に不条理に感じたこと。そして、成長していくうちにその苦痛を忘れ、子どもに同じ思いをさせる側になってしまっていること。
読むたびに、おそらく多くの大人たちは、自戒させられるものがあると思います。
作中に『なんとも地味なファンタジー』という言葉もありますが、限りなく壮大です。
ある意味、魔法やドラゴンが登場すれば、ファンタジーとして『壮大』に飾られると思いますが、作者様は敢えてそれに頼らず、少年少女たちに託された使命と、たくましく立ち向かう成長の姿、そして、強いメッセージ性を以て、壮大なファンタジーに仕上げられました。
でも、難しい言葉を使わず、わかりやすい言葉で紡がれた、教科書にも登場しそうな優しい物語。
多くのレビューで、この作品を称賛されていますが、私も同様に素晴らしい作品だと思います! ぜひご一読下さいませ☆
人生の残酷さに打ち拉がれたある女性が、一本のペンを手に入れる。
そのペンは、書き記したことが現実になる不思議な力を持つペンだった——。
物語に中に存在する複数の世界のうちの一つは、この女性が生きる薄暗い現実が充満した世界です。
もう一つの世界は、ファンタジックで不思議な世界。ひっそりとたたずむ洞窟の奥にある泉と、古い鏡。闇深く神秘的なその場所で、ある世界の子供達ともう一つの世界の子供たちが出会います。彼らは少しずつ友情を交わし、笑い合い、やがて自分たちが大切な任務を遂行しなければならないことに気づき始めます。「世界を救う」ために。
不思議なペンを執る女性と、現実の苦しさや理不尽さに真っ向から向き合う子供たち。物語を構成する複数の世界が違和感なく絡み合い、一つの壮大な物語を形作っていきます。この女性は何者なのか。そして、子供達とどのような関係にあるのか。読み進めるに従い、謎めいたストーリーが少しずつ紐解かれていきます。
「想像することで地球は回る」。これは、本作に込められた大きなテーマです。知力と体力、精神力を限界まで使い、世界を救うためにピンチに立ち向かっていく子供達。その任務を成し遂げた先に、彼らは世界を見守る「創造主」に出会います。創造主の姿は優しく、美しく、大きな温かさに満ちています。その気配は、私たちの現実を支配する残酷な神とは違う……ふと、そんなことを感じました。もしかしたら、ここに描かれた「創造主」は、作者自身が思い描く「優しい神」の姿なのではないかと。
諦めたように人生を眺めるのではなく、世界を明るく温かいものと想像することの素晴らしさを、目の前にはっきりと示されたような思いがします。
現実は理不尽で、苦しみの連続に思えます。けれど、どうせ残酷な運命に支配されているのだからと項垂れていて、何かが変わるのか。現実に振り回され、追い詰められ、項垂れている私たちは、想像する力を決して失ってはいけないのだと深く頷かされます。明るいものを想像し、リアルに思い描き、それを現実にしたいという強い願いを抱かなければ、望む未来は決して訪れない。先が見えなくて、危うくて、どうなるかわからなくても、踏み出さなければ何も始まらない。この物語は、そんな大切なことをはっと気づかせてくれます。
世の中は残酷で、冷ややかで。どれだけ努力したって、どうせ無駄。最初からそう俯いている子供が、今の社会にはとても多い気がするのです。そうではなく、顔を上げること。明るいことや楽しいことをイメージし、リアルに思い描くこと。そして、思い描いた輝くものへ向けて、足を踏み出すことの大切さ。そんな、これからを生きる子供たちにまっすぐに伝えたいメッセージがぎゅっと詰まった、高いファンタジー性とリアルな力強さを併せ持つ素晴らしい物語です。
この作者さんの物語は本当に面白いです。
読みやすい語り口、親しみのあるキャラクターたち、そこから描き出されるのは奇想天外なストーリー。
こういう想像力に富んだストーリーを綴れることは本当にすごいと思いました。
この物語では現実世界と、とある人物の手によってつくられた世界の二つの出来事が語られます。
現実世界はあくまでリアルな中学生の話。
もう一つの世界はファンタジー風味のある不思議な世界。
あくまで並行して存在している二つの世界が、とあるきっかけで接点が生まれます。
二つの世界に住むのは大人に差し掛かろうしている少年と少女たち。
少しずつ交流を含めていく二つのグループは、自分たちの世界が滅びようとしていることを知ります。
ミステリー的な要素も相まって、だんだんと深みを増していく謎とストーリーがかっこいいです。
そして世界を救うために彼らが起こした行動、謎の核心に存在するモノ、そのどれもが奇妙な説得力をもって語られていきます。
童話のようでありながら、ダークファンタジーの香りがあり、青春小説としても面白みがある。
とにかく物語そのものが力強くて面白い!
是非読んでみて欲しい作品でした!
始まりはとある村の少年少女の儀式の朝から始まります。そこは十三歳になると性別を選べる世界で、マガリコと言う相棒と共に生きる世界。
ところが相棒のマガリコが死んでしまった少年エマトールは、『死を視る者』となってしまいます。彼を好きな少女ハスミュラは助けたいと思いますが……。
そしてもう一つは現在の日本に近い世界。上記の村とはパラレルワールドのように時が進んでいて、エマトールとハスミュラと同じ響きの名を持つ少年少女がいます。彼らにも無力感や大人への不信感などの悩みがありました。
そんな時空の違う彼らが、運命に導かれるようにして出会い、交流を深めていくうちに、間も無くこの世の終わりが近づいていると言うサインに気づきます。
救うためには二つの世界に残された暗号を解読するしかない。協力しあって導き出した答えは、時間の差し迫った戦いを彼らに強いてきました。
それはこの世の創造主が託した秘密の試練、切実な願いがこめられた仕掛けでもありました。
肉体的な戦いと精神的な戦い、二つの戦を乗り越えて掴みとったのは、この世の未来と勇者になった真実。決して誰にも賞賛されることはないけれど、彼らの心を支えてくれる最高の冒険でした。
世界を救うと言う重要な任務を、力弱い少年少女へ託したのは、創造主の希望の表れかもしれません。いつの世も、未来を作っていくのは若い力。
みなさんもこの物語から、明日を切り開く勇気をもらってください。
一つは、一人一人がマガリコと呼ばれる相棒を持ち、性別の選択を通過儀礼とする世界。
一つは、現代の日本。
二つの世界がつながり、よく似た名前を持つ少年少女たちが出会い、冒険を経て成長する物語です。
子供から大人に移り変わる途中の少年少女たちの心理にリアリティがあります。
男らしさや女らしさ、昔から続いてきた慣例など、与えられたものと自分の心との間に齟齬が生じて、上手く前に進めない。
二つの世界は文化が違い、彼らが引っ掛かりを感じるものもそれぞれなのですが、それゆえに分かるのです。「物事の基準は一つではない」と。
子供だけで見つけた世界の秘密と大冒険に、心が躍りました。
勇気を出し、知恵を絞り、力を合わせて困難を乗り越えた先で、彼らは生きる上で真に大切なことを知ります。
読者視点でのみ知り得るパートも印象的でした。
心は常に自由であるべきですね。
子供たちが成長する姿に、背筋が伸びる思いがしました。
彼らと同じ年代の少年少女はもちろんのこと、大人も楽しめる素敵な物語でした!
二つの世界を、泉と鏡が映し出し、繋ぐ。
それぞれの世界には、よく似た少年と少女がいて、彼らは互いの存在を知り、言葉を交わすうちに二つの世界の運命を知る――
ここではない別の世界に、自分によく似た存在がいるかもしれない。
似てるけど、住む世界が違うから、やっぱり色々と違いがあって……。
そう考えると、なんだかワクワクしてきます。
「あちらの世界」では、みんなが「マガリコ」と呼ばれる小動物のような相棒を伴っています。これがもう、とても可愛らしくて。羨ましいですね。
でも、「マガリコ」を失ってしまったものには、ある重大な運命が待ち受けているのです。
その運命をたどることになった少年と、彼を支える少女。
二人と出逢った「こちらの世界」の少年少女は、ともに運命を読み解き、世界を守る役目を担う決意をします。
まだ中学校に上がる前の幼い少年少女たちが、数々の出来事に傷つき、恐れながらも、勇気を灯し手をつなぎ合って、一歩一歩を踏み出していく。
心を熱くさせる「小さな冒険」が、確かにここにあります。
二つの世界を救う、可愛らしい冒険譚。ぜひお楽しみください♬