第4話夢の話③
檻の中にゆうかは囚われていた。3階から見ているためはっきりしないが、ゆうかの顔や服は黒く汚れている。
さっきまで黙っていた群衆はゆうか1人が入った檻を見て笑い始めた。
「ほんとうだ」「今度は期待できるな」「来いよ来いよー」「かわいそうな子だね」
「ゆうか‼ゆうか‼ゆうか!!」
俺の声は暗闇の中、スポットライトで照らされたゆうかには届いていないのか目をつぶっている。
バカにしている人間達は檻に人が入っているのがとても愉快なそうで、普段人がみせないような口角の上がり方で笑っている。ただ笑うというよりも『物笑い』をしているようだ。この騒音の中で、大統領が今度は左手を口元にあて、右手を空に挙げた。
「ここにいる国民の皆さま。仕事が終わった金曜の夜はご機嫌如何でしょうか。お仕事が大変忙しかった方もいらっしゃったでしょう。しかしここにいるということは現在は大変自由な時間を謳歌しているわけですね」
大統領はホールを歩き周りながら演説を続けた。
「しかし自由な時間があるが何か足りない。もっと‼もっともっともっと‼……そういうわけで皆さんここにいらっしゃたのではないでしょうか」幾重にも重なった拍手がホールに響き渡る。大統領は笑顔で両手を広げた。
「そこで皆さんを今日楽しませてくれるのはこちらです。ゆうかさんです」
大統領が大きな声でホール中に響き渡り、さっき以上の大きな拍手が起きる。
「こちらの方はS県S市に住み家族構成は4人。父と母と3歳年上の兄と暮らしています。父は明菓製菓で営業部長として働き、兄は栄館高校という県内随一の高校で学年トップクラスの成績を収めています。そんな家族の中で生まれたのがゆうかさんです」説明が終わるとさっきまでの大きく興奮した拍手とは違い、ゆっくりとかしこまった拍手を周りの奴らはする。
このままではゆうかもショーの餌食になってしまう。助けなければと思うが、底のホールまで何メートルあるだろうか飛び降りたら骨折じゃすまない程の高さだ。これ以上ショーにを続けたらこれまでと同じことになる。
助けたい助けたい助けたい。
どうにかしないとどうにかしないとどうにか
すると俺は名前を呼ばれた。大統領が夢野こもりさんと何回も間違いなく俺の顔を見て呼んでいる。すると周りの人々が俺に注目してこそこそと喋り合い始めた。
「あの人らしいよ」「本当に?」「最高だよ」「今日は楽しそうだね~」
このショーは夢の話だ。あくまで夢の話なんだ。でも俺の夢はただの夢でなく正夢であって、俺の選択によって檻の中の人間の命がなくなる。それが俺の夢だ。
俺の夢は76回体験した通りの展開を広げた。俺は嫌々ながらホールで多くの人間の前に立ち、大きくお辞儀をして檻に囚われた人間を助けるためのクイズに挑戦する。しかし主題されるクイズを全て外してしまう。
『決定しました!ゆうかさんは四度、命をこもりさんの様な人間に狙われます。そして四人目によって殺されてしまいます』
拍手と喜びの声に俺と目を閉じたままのゆうかは包まれた。
そして俺は目を開けると暗い自分の部屋にいた。
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