第10話過去問分析②過去の事件―1

 火事について、俺はテレビで知った。何台もの救急車や消防車に囲まれ懸命な消火活動が行なわれていたが、ゆうかの自宅はごうごうと燃えていた。

 俺は中学生になってから不思議な夢を見るようになっていた。事細かには覚えていない。ただ経験したことない非現実的な夢をみたと目覚めた時に漠然と感じていた。そんな日は寝起きがすっきりとして、体も軽く楽しい1日をおくれていた。しかし、中学2年生になってから夢は変化していった。 

 それまでは覚えていなかったが起床しても夢の内容を覚えているようになった。なんとなく楽しい世界で大規模なショーを見た。なんか美味しいものを昔ながらの屋台で飲み食いしていた。次第にそこでどんなショーが行われたか、どんな物を食べたかが鮮明になっていく。そして俺は中学2年生の雨の降ったある日起床後もはっきりと覚えている夢をみた。

 高層マンションのようにそびえたつ、赤く大きなその1棟のタワーの中に多くの人が入っていく姿をタワー前で俺は見ていた。高級フレンチの店に入店するためにかしこまった服装の老夫婦やキラキラと輝くかっこいい大学生、汚れたつなぎを着る者など街で見たことのある人間からテレビでしかみたことのない人間、全くどんな服装かもわからない人間と色々な種類の人間達がタワーに入っている。ぼんやりと見ていると後ろから多くの人々が現れ、タワーに向かう人々に押され入ってしまった。

 中は人ですし詰め状態で人の波に押されかなりの距離を歩くと、小さな隙間を見つけそこに体重をぐっとかけた。するとスポンと体が勢いよく抜け何かに頭を打った。人の波から抜けて一瞬視界に映ったのは、大理石で出来た何かだった気がする。反射的に閉じてしまった目を開けるとそれは大理石の机が設置された相談窓口だと判明した。机に座っている人と俺の間にプラスチック製であろう仕切りに金色の文字で記されているから間違えない。

 「大丈夫でしょうか?」

 「大丈夫です」

 「左様ですか」

 向こう側に座っている鳥の羽が付いた帽子を被った女性はそういうとぼっーと天井を見始めてしまった。パタパタと顔の前で手を振るがさっき会話をしたときのように顔を合わせてくれない。すいません、と何度も呼びかけると再びこちらに顔を向けた。   

 「どういたしましたか?」

 「あの……どうすればいいでしょうか?間違えて入ってきちゃったんですけど」

 女性は急に笑顔を見せてくれた。

 「お客様の席は3階です。ぜひ楽しんでください」そういうとまた、受付の女性は天井を眺め始めてしまった。

 「あの!」

 「……」

 「あの!」

 「……」

 俺は階段を登って3階に向かった。


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る