第11話過去問分析②過去の事件―2
俺はフカフカの席に座ってステージホールを眺めていた。ホールは席から見るとかなり下にあって、ゲームのやり過ぎで視力が下がった目でははっきりと見えない。でも何もないホールからは目を離さない。ただのマンションの3階の高さの倍はくだらないからだ。……あーヤバイヤバイヤバイ。
俺は建物への好奇心に従い、急いで席を立ちいくつもの客席の間を通り抜けドアから外に出た。ホールの上には誰が立つのだろうか。廊下に出たが人は誰も居ない。先程までガヤガヤと人で溢れてうるさかったのに誰も居ない静かな空間にはもの寂しさを感じる。広い廊下に響くトントンという自分の足音が響き渡ることでより感じてしまう。
「すいませーん。誰かいませんか?」
風音が返事をする。ぴゅーぴゅー。相談窓口をこの階でも探し、案内をしてもらおうと思い歩くとぴゅーぴゅーが次第に大きくなってくる。ぴゅーぴゅーぴゅー。たまにゴーゴーが聞こえてくるのでまるで風が歩みを止めるように言っているように思えてしまう。これ以上足を進めてはいけない。さもなくば見てはいけないものに出会ってしまい、お前の人生は変わってしまう。風が何かを予感させるなんて急展開に巻きこまれた自分に酔っているのだろう。だからそんな風に思えるのだろう。ただ人がいないだけの廊下を俺はそれとなく歩き続けた。
「……あ」
左手の壁には案内図があり現在地は3階と記載されている。階層は4、5、6……といつまでも続いていて9階まであるのだが、タワーの絵が途中で切れているだけでまだ上の階がありそうだ。そして下の階も2階、1階と続いているのだが1階の下にもさらに続きがありそうで絵が中途半端に切れている。
トン、トン、トン。
俺は案内図を後に階段を降りた。
案内図に書かれていた1階はひどいものだった。俺が歩いていた3階の廊下は柱がよく目に入った。とても太く高さ5メートルはある柱が廊下に並んでいて、あまりにも綺麗なので近づいて見ると鮮やかな朱色だった。しかし1階では違った。柱は高身長の人間程の高さしかないので、天井は低い。さらに柱は赤色どころか色が塗られておらず木目が剥き出しだ。柱によってはポツポツと赤い点がまだらに付いている。人の波にさらわれていた10分程前には気が付かなかったが階が違うだけで廊下はここまで違うのかと不思議に思い触れるとそのアカは手に付着した。鼻を近づけても異臭はしないし親指と人差し指で擦り合わせてもサラサラしてるわけでも粘性があるわけでもない。
「君はここの階は初めてかい?」
突如現れた男に驚きキョトンとしていると、ついてくるように手でジェスチャーした後振り返って一人で歩き出した。ボロボロの洋装の男が当然現れたことには驚いたが見たことのない世界をみることが出来るという予感が当たったような気がして男の後ろをついて歩いた。彼は廊下の余分なものは触らないようにと何度も注意されるので、この1階に興味を持った。ゴミが所々にある床やたまに壁にかけられている絵画。どれも触ってみたい。まずは額縁にも入れられていない太陽の絵画を持つと裏側から木くずがパラパラと落ちてきた。さらに赤色だけで書かれた太陽を実際に触れると指が滑った。見るとアカ色が手に付いている。さっき柱に付いていた色と同じだ。
「気づいた?血だよ」
「……」
「血なんだよ」黙る俺に笑顔の男は手招きをして右の壁を指差した。男はまっすぐ腕を伸ばして壁を押すとゆっくりと壁の中に消えていった。俺もまねて壁を力強く押すとゴゴゴゴゴと音をたてながら壁は奥に動いた。その先はホールに繋がっていて多くの人間が客席から見ていた。彼らはアルミ缶などのごみをホールに向かって投げている。それがホールの中央にある檻に当たっていて、ホールの中央はゴミだらけだ。
「わかるか?あの中にいる人」男はホール端でコソコソと俺に話しかけて来た。そして言った。
「あいつ死ぬんだぜ」
目を凝らすと檻の中に人が閉じ込められているのがホール端からもわかる。……ゆうかの母だ。全身赤色、血だらけだ。
「火事で死ぬんだぜ」
「えっ」
男の方に振り返ると男はいなくなっていた。
この夢から覚めた1週間後ゆうかの母は火事で亡くなった。
もしもの世界~夢野こもり~儚いは散る 僕に才能はない @bokuhanai
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