第5話スタート

ゆうかは驚いていた。家を訪れる時の彼女はいつもとても元気で高校3年生とは思えないほどの無邪気な笑顔をこちらに向けてくるにも関わらずだ。しかしそれは彼女が俺は正夢をみることを知っている唯一の人物だからだ。正夢と言っても大統領の言葉が現実化するだけだが、これまでの76回の実績がある。彼女にとっては死刑宣告とも言えるだろう。

 「だからそんな暗い顔していたんだ」

 「当たり前だろ。だって‼」

俺は言葉を喉元に留めた。自分にはそんなことを言う資格なんてない。思わず立ち上がり、机に乗せた両手を引っ込めた。ゆうかは首を伸ばして笑顔になって俺の顔に近づき大きな声でゆっくりとはっきり言った。 

 「でも逆にこもちゃんのおかげで今日が命日だって分かったから落ち着くよ」  

笑顔で言うゆうかの顔を見ると手の震えが少し収まって来る。そもそも自分の手が震えていたこと自体は収まって気づかされたのだが。これまで彼女の言葉にたくさん癒されてきたからだろう。この不思議な夢をみるようになって身の周りの人間が死んでしまい気持ちの整理が落ち着かないときはゆうかが慰めてくれた。大丈夫、そんなこともあるよ。普段の生活で安売りされているようなあまたの言葉でも彼女が言うとズシッンと心に響いて体が軽くなった。学校に顔を出さなくなった今でも変わらない。慰められ続けた俺だから彼女のことはよく見ている。こんな風に目を開かない、こんな風に頬は下がらない、こんな風に……。いくつもの『こんな風に』が見つかる。

 「俺がこれまでの借りを返すよ」

すると笑顔は彼女の腕で隠されてしまったが、机には水溜まりが出来ていく。

 「ありがとう」

俺は運命に逆らうことを決意した。

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