夢と思い出と

子どものころ

はじめて地図帳をもらったとき


自分と同じ名前の駅を見つけて

いつかその駅に行くことが

その駅の切符を買うことが


僕の夢になった


そして18才のとき

本当にしんどかったけど

一生懸命バイトして 

旅費を貯めて


僕は旅立った


だけど当時はインターネットも何もなくて

遠いその駅が無人駅になってたなんて

もう切符は買えなくなってたなんて

そんなことは知るよしもなく


結局 夢はかなわなかった


でも 帰りの列車の窓から

移りゆく景色を見ながら

僕はこの夢に全力をつくしたのだと

あきらめずにやるだけやったのだと

自分自身 納得できたから


その夢は 夢から思い出に変わったんだ


だからいろんな夢があって

その夢がどんどんふくらんでいる人は

きっと中身がつまった大人になるんだと思う


夢は歳を取るにつれて

結局かなわない夢もたくさんあるけれど

精一杯やりきったら きっと

その夢は思い出に昇華されて


たとえその夢がかなわなくても

思い出がたくさんつまった大人に

なれるんだろうって思う


実は 子どものころ

僕には宇宙飛行士になりたいって

夢もあった


だけど 周りのみんなは

そんな夢は馬鹿げてるって

誰も相手にしてくれなくて

それこそ家族ですら


テレビで日本人宇宙飛行士のニュースを見ると

少しだけ胸がちくっとする


夢をあきらめたその場所には

ぽっかり穴が空いて

もう なんにも残ってないけれど


だから夢を簡単にあきらめてしまった人は

中身がなんにもない

空っぽの大人になるんじゃないかな


だけど 

どんなに思い出に満たされた人でも

思い出は夢と違って

少しずつしぼんでいくから


やがて心にすき間ができて

寂しくなるんだろう


だから人は心のすき間を埋めるため

一人じゃ生きていられなくなって

恋をするんじゃないかな


そして やがて子どもを授かり

その子どもが今度は二人の夢になるんだ


でも だからって

いい大人が子どもたちに

自分の夢を押しつけちゃダメだよ


どうせその夢は

自分があきらめた夢だろう?


子どもたちには

自分で夢を見つけてほしい


こんなに何もかもが

あふれている世界だけれど


山はのぼりつくされ 

穴は掘りつくされ

こんなに夢が見つけにくい時代だけれど


自分の夢を見つけてほしい

地図帳で自分の駅を見つけるように


夢は追いかけているときが

一番しあわせだから

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