第一章 

第2話 幻想を謳う少女

【1】


 王宮から半ば無理やり追い出されたルイは街中を歩き回っていた。実を言うとおいだされたときに持ち物をほとんど回収されてしまい一文無しになっていたのだ


「お腹は……空いてないし街の外にでも出るとしても魔物も倒せないしな」


 やはり自分は無能なのだろうか、と胸の奥がチクリと痛む


 それにしても昼間だというのにこの辺りはやけに静かだった、以前ここにきたときは昼間にはかなりの賑わいを見せていただけに何故か気になって仕方がない。そのとき微かだが遠くの通りで賑わっている声が聞こえてくる


「なんかやってるのか?」


 どうしても気になってしまい奥の通りまで歩いていく、そしてとうとう見えるようになったのだが──


「なんだ、これ」


 通りの真ん中には1人の少女が力なく横たわってきた、猫耳のついた少女。綺麗な白髪に澄んだ青い瞳、肩まで伸ばした髪もそうだが見た目はルイより少し下だろうか? 幼さが残っていた


 しかし、問題はそこではなかった


「なんなんだよ、これは」


 少女を取り囲むようにして街の人が数十人ほど石を投げたり木の棒で殴ったり蹴ったりしているその光景は何故だがさきほどまでの自分と重なって見える


 周りの人間は見て見ぬふりをする人や関わりたくなさそうに通り過ぎる人、哀れみの視線だけ向けてなにもしない人。獣人の少女を殴りながら楽しそうに笑う人、たくさんの人間がそこにいた


 ならばルイはどうなのだろうか


 助けたい、可哀想だなと思いながらも助けに行くことで自分も何か言われたり、やられるのではないかと不安と恐怖が襲ってくる


「俺は……」


 このままだと獣人の少女は死んでしまうだろう、そんなことを気にして殴ったりするのをやめているのであれば周りの人間はあんな表情をしない


 そして、このまま見てるだけのルイもまた見てるだけの傍観者──王様の周りの人間と同じ側になってしまう


「そんなのは、いやだ」


 ルイは勇者だ


 しかし力はないに等しく勇者としての能力もスキルも経験もなにもかもがなかった


 だけど


「あいつは俺と似てる、あんなに痛みつけられてもあの瞳は綺麗なままだ」


 そう、彼女は散々殴られ蹴られ石を投げられているが泣きもせずただじっと我慢しているのだ


「あぁ、もう。こうなったら仕方ない」


 ルイは助走をつけるとそのまま周りの人間を突き飛ばして少女の前で両手をバッと広げる


「おい、兄ちゃん。そこをどきな」


「そうだそうだ! じゃないと、兄ちゃんも痛い目見ることになるぜ?」


 先程まで率先して少女を殴り蹴る等していたガラのわるそうな男性は突如現れたルイにかなり苛立ちを感じているようだ


「どう、して」


 後ろで少女の声が聞こえる


「理由なんて、ねえよ」


 ルイにはその言葉を口にするだけでもかなりの緊張感が増す。この人数相手に勝てるわけがない、無謀にも等しいこの守り方に我ながら呆れてしまう


「でも、ごめんな。俺は弱いからさお前を守ることはできない、だから早く逃げてくれ」


 少女は力なく首を横に振る、そして


「……だめ、キミが逃げて」


 そう言って少女はふらふらと立ち上がった


「──ッ、おい! なにしてんだ、さっさと逃げろこのバカ野郎!」


「キミは、──面白いね」


 そう言って少女はまたしても、いや。今度は本当に倒れた。そのとき筋肉質な男がルイを指さして声を上げた


「あれ、こいつ勇者じゃないのか? 王様の命令を無視して宝物庫に忍び込もうとした勇者様じゃないか」


 男たちはその声に腹を抱えて笑っている


「お前ら、よくもまぁこんな小さな女の子を殴ったり蹴ったりできるよな。それに……」


 怒りもまさに絶頂点、憤怒の域を超えていた


 もしも、俺に力があれば……


 こんな奴ら、全員ぶっ飛ばしてやるのに


 頭の中が熱くなる、感覚が、鼓動が速くなる


 全身が熱い、なんだこれ


 頭の中、脳内ではふいに想像してしまった周りの人間をぶっ飛ばすイメージが強く残っていた


「へっ、こいつもう寝たのかよ!」


 後ろのほうにいた数人の男が木の棒を片手に少女に殴りかかろうとしていた


 ぶちん、と何かが切れる音がした


 直後その数人の男たちはに押され後方へ吹っ飛んだ


「なんだ……?」


 周りがざわつき始める、そしてルイ自身も何が起きたのか理解が追いつかなかった


 まさか、と思い心の中でステータスオープンと呼び声をかける


 その心の声に反応して目の前に可視化されたのは


【スキル欄

 ・創造魔法

 説明:頭の中で強くイメージした

 ものが魔法化し新たなスキルとなる

 ・インパクト

 説明:空気を圧縮したものをぶつける】


 そう記されていた


【2】


 ルイは可視化されたステータスボードを見て絶句した、スキルなんてものはこれまでなくこのままないのかと思っていたからだ。そしてこの創造魔法というのは……


「まさか、さっき脳内でイメージしてたものが魔法になって、それでインパクトを習得したってことか?」


 今はまだ理解が追いつかないがこれだけははっきりとわかる


「おまえらぜんいんぶっとばす」


 ゆっくりと言葉にし周りの人間を見渡す


「ちっ、てめぇら! まずはこのガキからだ! さっさとやっちまえ!」


「「「おう!」」」


 リーダー格の男性が指示し6人組の力士みたいな男が木の棒を片手に近寄る


 以前の無能と罵られていたルイならともかく今の能力に目覚めた彼の敵ではなく……


「『インパクト』」


「ぐはっ!」


「ぶへっ……」


 真ん中の2人の腹を狙いインパクトを放つ、その衝撃で怯んだ残りの4人にもインパクトを叩き込んだ


「ごふっ」


 呆気なく倒れた6人の男を見つめ、リーダー格の男性を見やる


「めんどくせぇ奴がきたなこりゃ。いいぜ、引いてやるよ。ただ覚えとけ──俺は《紅血》の人間だ、下手にこれ以上騒ぎを起こすなら容赦しねぇよ」


 そう言ってバッと姿を消した


 いつの間にか周りの人間もいなくなっておりここにいるのはルイと獣人の少女だけである


 はっと気が付きあわてて少女の元へ駆け寄る


「とりあえず……、そうだ。王都には確か冒険者が住み込みで探索してるダンジョンがあったはずだ、その休憩エリアに行けば手当もできる」


 そう言ってルイは少女を抱えてダンジョンへ走っていった


────────────────────こんにちは、めるです。

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