第8話 ケルトの実力

【1】


「……じゃあ、行ってくるよ」


 ありがとうございました、とお礼を言いクー婆に背中を向けて外へ出る


「クー婆……」


 メアはクー婆との別れを惜しんでいるのか中々外へ出てこない。そんな彼女にクー婆は軽く微笑むと


「儂のことは気にするな……。お前がなすべきことを果たしてこい、目的を果たすためにもなにが大切なのか見極めて生きろ。それだけが儂の言いたいことじゃ」


 ルイにはクー婆とメアがなんの話をしているかは聞こえていなかった


「──うん、ありがとう。それに次に向かう場所からは逃げたくはない、私は行ってきます」


 メアはそう言うともう振り返らずに外へ出てきた。クー婆との話は終わったらしい


 メアには世界樹の鍵がどこにあるか分かるという能力がある。今回もそれに頼ることになるが紅血が既に1つ手に入れた以上こちらも急いで1つは必ず確保しなけらばならない


「ルイ、次に向かうのは世界樹のダンジョンの東1キロ離れた、恐らくそこに未知のダンジョンがあるはずよ」


「獣国、ルーニアの跡地?」


 初耳だった。この世界にはルイの知る限り王国と魔物の暮らす『魔境』、そして王国の後ろには大きな帝国がある。それ以外の国は聞いたことすらない


「元ってことは、いまはもう──ないのか?」


 聞いてもいいことなのか迷ったがこれだけは聞かなければならなかった。それに獣国とはいったい…………彼女は故郷を焼き払われたと行っていた。まさか──


 いや、そんなことはないだろう。とこれ以上考えたくもなく無理やり思考を閉じる


「……うん、獣国は数年前に滅びたからね。

 私はまだその頃生まれて間もなかったらしくて知らなかったけど。故郷が焼き払われる前に教えてくれた」


 どこか悲しそうに、穴の空いた虚空を眺めているかのような表情の裏にはとてつもなく巨大な憎しみの感情が読み取れた


「──プルアリム」


「プルアリム?」


 そして放たれた言葉はまたしても聞いたことの無い単語だった


「通称『鯨牙艦プルアリム』飛龍とは比べ物にならないほど上空を飛行する魔物、全長はおよそ1キロもする化け物」


 見た目は鯨のようだが龍種にしか見られない大きな翼もあるらしくその翼すらも武器となるらしくさらには全長が1キロもする化け物となると想像が難しかった


「プルアリムはこの世界における『四大魔獣』の一体、四大魔獣は一体だけでも1つの国を落とせるほどの能力を持つわ」


 ゴクリ、と喉が震える。果たして今のメアとルイで勝てるだろうか……願うならばそんな魔物とは戦いたくはない


「もし、出会ってしまったら?」


「勝てない、逃げるしかない」


 メアは迷わずに即答する。彼女がそこまで言うのだから逃げるしかないのだろう


「ん……? まてよ。まさか獣国が滅んだのは」


「『鯨牙艦』──プルアリムが滅ぼした」


「まじかよ……」


 ますます怖くなってしまうがその魔物が現れたのは数年前でここ最近は見てないらしい。それならば今から行ったとしても出会うことはないだろう、それに全長1キロもあるならすぐに気づけるし逃げれると考える


「わかった、とりあえず元獣国へ行こう」


「急がないとね──嫌な予感がするから」


【2】


 王国から出て一時間が経過する。辺りは荒廃した街のようなもので覆われており瓦礫や建物が崩れていたりしている


「これが、滅んだっていうかつての獣国……」


 無惨にも国という原型を留めれずに滅んでしまった元獣国に対して哀れみと悲しみの感情が溢れ出す


「もう着いたんだよな、鍵はどこにあるんだ?」


 メアの方へ視線を向けると彼女も辺りを見回しては首を傾げていた


 不思議に思いながらも彼女の元へ駆け寄る。目の前には地下へ続く階段が見えた。恐らくこの先がダンジョンなのだろう


「入らないのか?」


 いつまで経っても動こうとせず辺りを警戒しているメアに多少の苛立ちを感じながら先に階段を降りようとする


「まって」


 メアに呼び止められ思わず足が止まる。しかし目の前にダンジョンがあるというのに何故呼び止めるのだろう


「鍵は確かにここ──元獣国ルーニアにある。それは確かだけど……何かがおかしい」


 そう言って尚も辺りを警戒しているメアは1度深呼吸をしてルイに視線を送った



「どういうことだ?」


 それではまるで誰かが先にこのダンジョンを攻略したというのか? 一体誰が……いや、まさかそんなはずは。ルイはその瞬間背筋がピンと張り詰めるような寒気を感じた


「ルイ! 右──」


 カキィン、と。メアの言葉と同時に右手側にマグナムを放つ。しかし放ったマグナムは


「お前は……ッ!」


 見覚えのある少年──『紅血』所属のケルトが余裕そうな態度を崩さずに立っていた


 ルイは小さく歯噛みをする。そして辺り警戒を怠らない。もしかするとこいつの仲間がまだどこかに潜んでいるかもしれない


 メアから聞いた話だとこの『紅血』は苦戦していた毒龍を雑魚モンスター呼ばわりしているらしい。そこから分かることは──それに苦戦していたルイとメア、2人より強いということだ


「昨日ぶりですね、改めて。僕は『紅血』所属が一人、『四大天』」


「四大天……?」


 まるで四大魔獣の人間バージョンのように聞こえてしまう。ケルトはそこで微笑して淡々と説明を加えていく


「『紅血』の悲願──それはルーニアが滅び行き場を失った僕や魔境に住む魔族たちの総意。王国への復讐ッ! それだけだ……ッ」


 激しい憎悪を表情に出しながらゆっくりと近づいてくる。ルイの魔力感知では感知できなくなるほど彼の魔力量はずば抜けていた


「ここに来たということは君たちも世界樹のダンジョンを攻略するつもりなんだろうけど──それはさせない、僕は、僕たちはッ! 復讐という悲願のもとに世界樹を攻略するという崇高な使命がある……。それを邪魔する奴は全員殺すッ!」


 シュッ、という音とともに姿を消したケルトがどこに動いたかなんてルイにもメアにも捉えきれず気づくと背後に殺気を感じた


「──ッ! 『エアステップ』」


 エアステップと上昇スキルで上空へ回避するが元いた場所は地面ごと抉られていた


 ケルトは上に回避したルイを見て舌打ちをすると同じく空へ跳んだ


「『マグナム』──『インパクト』ッ!」


 マグナムとインパクトを放ちケルトに対して牽制攻撃を行う。しかしケルトが腕を振り払うとルイが放った魔法が消滅した


「な……」


 そのままケルトがルイに近づいていく


「『インパクト』ッッッ」


 飛龍と戦った際に避けるために使った魔法、インパクトを頭上で放ち下へ落ちて回避する


 突如下へ落ちていたのに下から上へと衝撃が走る。何事かと必死に頭を動かし下を見る。そこにはを振りかざすケルトがいた


「がっ……」


「ルイッ! 『ライトニングソード』ッ」


 メアが心配そうにルイを見上げながらケルトへ向けて魔法を放つ。しかしその魔法すらも腕の一振りで消滅した


 上へ吹き飛ばされそのまま地面へ落ちたルイは痛みに堪えながらヒールを使う


「強す……ぎる」


 圧倒的実力差だった


「まずは一人、彼はしばらく動けないでしょう。その間に……そこの女でも潰しますか」


 ケルトは魔力でできた槍を手にメアへ近づく


「いや……、なんで……」


 メアも魔法を放つがケルトには効かず全て消滅するだけだった。その間にもケルトは近づいていく


「やめろ……」


 ルイは必死に這ってメアの元へ急ぐ。ヒールでは治せないものもあり折れたであろう左腕は使い物にならなくなっていた。それでも彼女を守るために、這って彼女の元へ急ぐ


 それに気づいたケルトはハハッと笑うとメアとの距離を10メートル空けたまま立ち止まった


「素晴らしいですね、褒めてあげます。とんだ友情劇だ! さぁ、待っててあげますよ。はやく彼女の元へ急いだらどうですか? なにもできないくせによく頑張れますね」


 ハハッと笑いながらケルトは這ってメアの元へ急ぐ


「ルイ……、来たらダメ。逃げて」


 メアは若干震えた声でそう言った


 しかし──


「逃げるわけねえだろ……がっ、ぐは」


 這って進んでいるとふいにバランスを崩して横に転がっていく。何が起きたのか理解するまえに先程より大きな笑い声ごケルトの方から聞こえてきた


「ハハハハハッ! 目の前が斜面になってることも知らずに頑張って這ってたんですか。気づかずに進んでしまえばバランスを崩してしまうというのに」


 さて、楽しんだのでもういいでしょう。そう呟いたケルトは今度こそメアに近づく


「やめろ、やめてくれ……」


 間に合わないと確信してしまったのかそれとも体が動いてくれないのか前へ進むことはできなかった


 それでも動く右腕だけはメアに向ける


「メア、メア……。俺が、、守る力がないから……ッ」


 ──守る力ならあるじゃないか


「──え?」


 頭に反響してきたその言葉に思わず口から小さく言葉が出てしまう


 ──創造魔法。それがキミにとって最強の力なんじゃないのか? キミは無能なんかじゃない。最強の力を手にした……勇者だ


「そうか……創造魔法。でも、マグナムもインパクトもあいつには効かなかったッ。意味無いんだよ……」


 思わず嘆いてしまう。目から涙が一粒、また一粒と頬を伝って落ちていく


 ──闇魔術付与


 その時クー婆の声が聞こえたような気がした


「闇、魔術付与……」


 カチリ、と。ルイの頭の中で何かが変わる音がした──ルイの目に映るのはメアではなくケルトだった




【闇魔術付与:1つの魔法に対して

 闇魔術を付与することができる。

 魔術とは魔法と違い対魔法壁をも

 貫通する最強の秘術。魔法が効か

 ない相手にも攻撃が可能である 】




 ────────────────────

 こんばんは、めるです。

 第8話魔境編のまだ始まりのなかの始まりです

 そして謝辞を、この度8話を読んでくださりありがとうございます。魔境編はまだまだ続いてくので楽しみに待っていてください

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 それではまた第9話でお会いしましょう










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